パンデミック.新形コロナウイルス
法的な手続きの壁に阻まれ、役所の冷たい窓口を後にした僕らは、二つの異なる闇に救いを求めるしかなかった。
一人は、この病院の裏事情をすべて知る顧問弁護士。そしてもう一人は、かつて夏美が身を置いていた風俗店の頂点に君臨する、荒々しい男――裏社会の人間だった。
風俗店のボスであるその男は、夏美の置かれた過酷な境遇を誰よりも深く理解していた。店が終わっても帰る家がなく、怯えている彼女を見かねて、店に泊めてやったことも一度や二度ではない。「あんな親の元になんか帰せるか」という情けと怒りは本物だったが、彼らの解決法はあまりにも暴力に満ちていた。
「今度またあの親がしゃしゃり出てきやがったら、俺が木刀でボコボコにして追い払ってやるよ」
法的な書類や親権の移転といったスマートな解決策など、彼らの辞書には存在しない。そこにあるのは、ただ「暴力で脅して黙らせる」という、圧倒的な裏社会の論理だけだった。だが、絶望的な親権の壁の前に立ち尽くす僕らにとって、その野蛮な力さえも頼りにするほかないほど、現実は追い詰められていた。
一方で、病院の正式な弁護士に相談した結果は、まったく異なる冷厳なものだった。
弁護士の男は、眉間にしわを寄せながら静かに首を横に振った。
「一般的な法律論で言えば、非常に厳しいと言わざるを得ません」
弁護士が淡々と告げるのは、法治国家の冷徹な現実だった。たとえ日常的な虐待の痕跡があろうとも、未成年者に対する親権は法律上、極めて強固に保護されている。仮に親が警察や家庭裁判所に「娘を連れ去られた」「未成年者略誘だ」と駆け込めば、病院側や僕らは一発で刑事訴追の対象になり得る。親の同意なしに病院へ定住させることは、法的な手続きを踏まえない限り、すべて「違法な囲い込み」とみなされてしまうのだ。
「裁判所に保護命令を申し立て、児童相談所を介入させ、親権停止の審判を勝ち取る……。それには数ヶ月、いや、下手をすれば年単位の時間がかかります。その間、親からの強制的な連れ戻しのリスクを防ぎ切れる保証はありません」
法的な正攻法は、あまりにも時間がかかり、手続きの網の目は複雑を極める。法律は、今まさに怯え、明日をも知れない病と狂気のなかで生きる夏美を、すぐには救ってくれない。
理路整然と不可能を説く弁護士の知性と、木刀を片手に怒りを剥き出しにする裏社会の男の暴力。その二つの極端な狭間で、僕は夏美をこの手で守り抜くための、歪で険しい道を歩み続けるしかなかった。
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