パンデミック.新形コロナウイルス
真夜中の狂騒が街を揺るがす中、当然のようにパトカーの赤色灯が遠くから近づいてきた。しかし、パトカーの中から降りてきた警官たちは、その現場を見て慌てて犯人を捕まえるどころか、苦い顔をしながら遠巻きに眺めるだけで、決して踏み込もうとはしなかった。
それもそのはずだった。夏美が受け続けていた壮絶な家庭内暴力について、これまで僕たちは幾度となく警察に救いを求めて相談していた。しかし、警察は縦割り行政と法制度の限界を理由に、「家庭内の問題には踏み込めない」とまともに取り合ってくれなかったのだ。警察官たち自身も、その無力さに歯痒さを感じていた。
だからこそ、法律の網から漏れ落ち、誰も救うことのできなかった少女の地獄を、あの裏社会の男たちが暴力と圧倒的な実力行使によって文字通り叩き潰したこと――それ自体は、警察にとってもある種の「解決」でしかなかった。
「まったく……お前ら、ほどほどにしとけよ」
現場に駆けつけた警官が、呆れたようにため息をつきながら、ヤクザの親分に向かってそう呟く。逮捕どころか、むしろ彼らは「警察が手を出せない面倒なゴミを代わりに掃除してくれた」と、心の中で密かに感謝すらしていた。
法律や公的機関が守りきれない子供たちを、暴力という泥臭い手段で守る。彼らにとって、夜の街で風俗店を営み、身寄りのない少女たちを迎え入れて働かせることは、単なるシノギ(資金源)稼ぎだけではなかった。
「俺たちがこうやって店をやっているのはな、行くあてのない女の子たちに居場所を与えて、飯食わせて、守ってやるためだ。風俗の仕事なんてのはそのための手段にすぎねえんだよ」
彼らが吐き捨てるその言葉の裏には、世間の綺麗事よりも泥まみれの現実を生き抜いてきた者なりの、歪みながらも確かな矜持があった。法が救えぬ者を暴力で救い、表の世界が見ないふりをする闇を自分たちのルールで引き受ける。
警察すらも手出しができず、むしろ暗黙の了解でその手腕を頼りにする――それこそが、この街の裏側に隠された、誰も否定できない残酷でリアルな秩序の姿だった。
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