パンデミック.新形コロナウイルス
病院の地下と夜の街が、あの狂騒の夜を境に奇妙な一本の線で結ばれていた。
思えば、僕がこの病院をこっそり抜け出して通っていたあの風俗店こそが、夏美の働いていた店だった。岡山からやって来ては彼女ばかりを指名していたその客が、ほかならぬこの病院の患者であること――そしてあかりやニコルといった他の女の子たちとも院内で関係を持っていることなど、店にいた裏社会の男たちにとっては格好のネタだった。
「おや、この前も来てたアキオの兄ちゃんだろ。今回はまた、別の女の子たちとも色々やってるってな?」
風俗店の連中が面白半分に病院のほうへバラしたことで、僕が地下で繰り広げていた退廃的な二重生活は、あっと言う間に院内の人間へと知れ渡ることになった。
しかし、あかりもニコルも、もはや怒る気力すらなかった。
「……はあ、あいつは本当に救いようのないバカね」
呆れ果てたような、諦めに満ちたため息が漏れるだけで、誰もそれを真剣な問題として取り沙汰しようとはしなかった。上層のきれいごとが支配する一般病棟にでも知られれば一巻の終わりだったが、この閉ざされた地下病棟は、上とは繋がっているようで完全に切り離された法外のエリアだった。ここでは常識も倫理も通用しない。だからこそ、僕の浮気も「地下の日常」としてあっさり飲み込まれてしまったのだ。
その頃、あかりは抗がん剤治療の影響で無菌室であるクリーンルームに入り、ニコルたちは看護の激務に追われて忙殺されていた。
そんな、誰もが余裕を失っている静けさの中で、ストレスを溜め込んで暴走しかけている僕を救ってくれたのは、ほかならぬ夏美だった。
彼女自身の体にも、親からの虐待でできた生々しいアザがまだ消えずに残っていた。それでも、傷だらけのその小さな体で僕にしがみつき、すべてを受け入れるように抱きしめてくれる。痛みと狂気が入り混じるその地下の闇のなかで、僕らは互いの傷を舐め合うようにして、どうにか狂気をやり過ごしていたのだった。
思えば、僕がこの病院をこっそり抜け出して通っていたあの風俗店こそが、夏美の働いていた店だった。岡山からやって来ては彼女ばかりを指名していたその客が、ほかならぬこの病院の患者であること――そしてあかりやニコルといった他の女の子たちとも院内で関係を持っていることなど、店にいた裏社会の男たちにとっては格好のネタだった。
「おや、この前も来てたアキオの兄ちゃんだろ。今回はまた、別の女の子たちとも色々やってるってな?」
風俗店の連中が面白半分に病院のほうへバラしたことで、僕が地下で繰り広げていた退廃的な二重生活は、あっと言う間に院内の人間へと知れ渡ることになった。
しかし、あかりもニコルも、もはや怒る気力すらなかった。
「……はあ、あいつは本当に救いようのないバカね」
呆れ果てたような、諦めに満ちたため息が漏れるだけで、誰もそれを真剣な問題として取り沙汰しようとはしなかった。上層のきれいごとが支配する一般病棟にでも知られれば一巻の終わりだったが、この閉ざされた地下病棟は、上とは繋がっているようで完全に切り離された法外のエリアだった。ここでは常識も倫理も通用しない。だからこそ、僕の浮気も「地下の日常」としてあっさり飲み込まれてしまったのだ。
その頃、あかりは抗がん剤治療の影響で無菌室であるクリーンルームに入り、ニコルたちは看護の激務に追われて忙殺されていた。
そんな、誰もが余裕を失っている静けさの中で、ストレスを溜め込んで暴走しかけている僕を救ってくれたのは、ほかならぬ夏美だった。
彼女自身の体にも、親からの虐待でできた生々しいアザがまだ消えずに残っていた。それでも、傷だらけのその小さな体で僕にしがみつき、すべてを受け入れるように抱きしめてくれる。痛みと狂気が入り混じるその地下の闇のなかで、僕らは互いの傷を舐め合うようにして、どうにか狂気をやり過ごしていたのだった。