パンデミック.新形コロナウイルス
地下の冷たい廊下を歩きながら、僕はこれまでの日々を頭の中でゆっくりと振り返っていた。
あの夜、みんなで駆け抜けた砂浜。
海の家のヤクザな店長が差し出してくれた、湯気立つ熱々のコーヒーの温もり。
水上バイクで波を切り裂きながら上げた歓声。
男だらけのバンドの裏で、夏美ちゃんやニコル、そして「にゃあ」としか言えないでっかい猫がトリプルボーカルとして必死に声を枯らしたライブ。
屋台の美味しい匂いと、あかりと並んで見上げた満天の星空。
そのすべての記憶を思い返すうちに、僕の胸にはひとつの確信のような強い思いが湧き上がっていた。
人間の思い出というものは、決してネットの画面を通じたオンラインの繋がりなんかじゃない。
誰かと実際に身体を寄せ合い、同じ風に吹かれ、笑い、動き、同じ時間を共に共有すること――その生身の体験の積み重ねこそが「思い出」なのだ。そして、その温もりや絆こそが、どんな薬よりも強力に、病気と闘うための「免疫力」そのものになる。
太陽の光を浴びられないXP(色素性乾皮症)や白血病、あるいはどんな過酷な病や運命を背負っていたとしても。
太陽の下に出られないなら、夜の海に行けばいい。夜にひっそりと営業している海の家があったっていいし、そこで夜のイベントを楽しんだっていい。太陽だけが世界の本質じゃない。夜の闇の中にだって、僕たちを救う輝きはいくらでもある。
「こうでなければならない」という常識からはみ出していたって、そんな生き方や楽しみ方だって、十分に「あり」なんだ。
光を恐れ、地下の暗がりに閉じこもるしかない人たちにだって、夜の自由と温かい思い出を作る権利がある。
病気と闘う者たちが、心から笑える居場所は作れる。
その真実を、僕はいつか――この物語を通して、世間の人たちや世界全体に伝えていきたい。
そう強く願いながら、僕はあかりの待つ地下の病室へと、確かな足取りで歩みを進めていった。
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