〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
 
 パク・ユンホは有名なカメラマンだった。

 人物と背景を1つの絵画の様に撮るのが彼の特徴で、光と影の独特な画は国内のみならず、海外の俳優やミュージシャンからも多くのオファーが来る。

 恩年(おんとし)60歳の意欲は衰えを知らず、今日はK-POPアイドルグループの写真集撮影の為に、とある体育館にいた。

 メンバーの5人がバスケットをする、自然な躍動感と肉体美のシルエットを狙い、夕方の西日が差し込む時間を撮影時間に設定した。

 朝からスタッフと、カメラセッティングとカメラリハーサルに忙しい。

 写真撮影にカメラリハーサルを行うのは珍しいが、パク・ユンホは5人の動きを止める事なく、その写真を見た者が、まるで動画で試合を見ている錯覚を覚えるモノにしたかった。

 体育館の2階と1階にカメラを設置し、それぞれカメラ担当のアシスタント達に、絞りや採光の指示を出す。

 リハーサルの為に、メンバー代わりのスタッフが集められた。

 それぞれメンバーの体型や身長が似ている者が選ばれ、その役割は主に若手の大道具スタッフが担っていた。

 アシスタントからメンバーの名前の書かれたゼッケンを渡され、準備を行う。

 パク・ユンホは、メンバー本人達は恐らくこのスタッフ達よりも、高くジャンプする可能性があるとアシスタントに伝え、シャッターチャンスを逃さない様に注意を与えた。

 撮影スタッフの1人が電話を切りながら、パク・ユンホに走り寄って来た。

「パク先生、ジョン役のスタッフが来られないそうです」
「またか!」
 事務所スタッフは(いきどお)る。

 ジョン役のスタッフはドタキャンの常習者だった。
 
 パク・ユンホは少し考えて、そして「トラブルを呼べ」と言った。
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