新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~


「…そうえば、体調はもういいの?」

「はい、明日には普通に出社します」

「もう『普通』は無理だろ?」

彰さんの言っている意味が分かってギックと息を呑む。

「昨日深琴ちゃんたちが帰った後、副社長が『社長と小日向さんは実は婚約をしていて、もうすぐ結婚する』と秘書課のみんなに説明してくれた。その後で、個別に俺は香純ちゃんと愛花から君たちの『過去の話』を聞かせてもらった。ごめん」

「…いいえ、こちらこそ今まで黙ってごめんなさい」

「いや、それは気にしてないから。…それにしてもこれで疑問が解けたな」

そう言って、彰さんは少し頬を緩ませた。

「『疑問』?」

「社長が就任して、すぐ深琴ちゃんを秘書課に引き抜いた理由だよ。…しかも、全部言葉にしなくても『あれ』や『これ』で、お互い言葉が成り立てるのを聞いた事があるから不思議だったんだ」

彰さんは納得したという顔で言う。

私の顔は、たぶん赤くなっている。

「…でも、良かったね。おめでとう」

「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします」

私は彰さんに軽く頭を下げた。

それとほぼ同時にドアが開いて、夏彦が中に入って来た。

「…なんで、深琴がここにいるんだよ。それに田口さんまで…」

「お疲れ様です、社長。深琴ちゃんが『忘れ物を届けに来た』と言うので、社長が戻られるまで付き添わせて頂きました」

夏彦も愛花と彰さんの『関係』を知っているので、なんだかの誤解する事はない。

「『忘れ物』?」

私は鞄の中から封筒を取り出して、夏彦に手渡した。

「今日の会議の資料。仕事部屋にあった」

「…忘れてた。やっぱり俺は『仕事』でもお前がいないとダメだな。助かった」

夏彦は私の頭に手を置いて、少し苦笑いをした。

彰さんが私たちを見て「仲いいね~」と呟いたのは、耳には届かなかった。


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