シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
もう4日も音信不通になっていれば、さすがに自分の失踪は顕在化しているのだろう。うざいので、母親には香港の学会でのスケジュールは正確に伝えていない。母はきっと帰国が遅れていることにも気付いていないと思う。
しかし、日本の研究室の仲間は騒いでいるはずだ。在香港日本国総領事館は捜索してくれているのだろうか。自分のような小物には、真剣に腰を上げたりしないのだろうか。中国の体制に組み込まれる香港警察はまったくあてにできない。
彼はポケットから紙であしらわれたポケットチーフを取り出すと、その紙の温かみを確かめるように指で撫でる。こうすると、エラの笑顔が脳裏いっぱいに広がり、窮地の中でも彼の心が癒されるのを感じた。戦場で家族の写真を肌身離さずもつ兵士の気持ちが分かった。そうでもしないと、心が壊れそうになってしまうのだ。
エラと過ごしたあの一日が、何度も何度も思い出される。もしかしたらあの一日が、自分の人生の中での幸せの頂点だったのではないかと思えるくらいの勢いだ。同僚や友達と過ごした楽しかった日々も思い出さないわけでもなかったが、とにかく今はエラがタイセイを癒す一番の薬だった。
『エラは今何しているのだろう…時々自分のことを思い出してくれているのだろうか…』
ドアのノックの音で彼の癒しタイムは強制終了させられた。
監視が夕食を部屋に運んできたのだ。その姿を目で追いながら、タイセイはまた長い溜息をつく。タイセイとしては当然逃げ出すプランをあらゆる方向で考えていたが、黒いスーツの彼らがその可能性をひとつひとつ潰していく。仮に彼らの目を盗んでこの家から逃れたとしても、味方ではないので香港の警察署に駆け込むことはできない。さらにスマホもパスポートもお金もない彼が、ひとりで香港の街並みを駆け抜けて、在香港日本国総領事館に逃げ込むことも、到底無理だと感じていた。
監視は夕食の皿を無造作にテーブルに置くと、一言も発せず部屋から出て行った。タイセイは癒しタイムを再開せず、いつも通りテーブルについて食事を摂ることにした。何が起きてもおかしくはない未来に向けて、今は自分の体を万全にしておくことの大切さを放棄しない。そんな冷静さはかろうじて保持していたのだ。
しかし、日本の研究室の仲間は騒いでいるはずだ。在香港日本国総領事館は捜索してくれているのだろうか。自分のような小物には、真剣に腰を上げたりしないのだろうか。中国の体制に組み込まれる香港警察はまったくあてにできない。
彼はポケットから紙であしらわれたポケットチーフを取り出すと、その紙の温かみを確かめるように指で撫でる。こうすると、エラの笑顔が脳裏いっぱいに広がり、窮地の中でも彼の心が癒されるのを感じた。戦場で家族の写真を肌身離さずもつ兵士の気持ちが分かった。そうでもしないと、心が壊れそうになってしまうのだ。
エラと過ごしたあの一日が、何度も何度も思い出される。もしかしたらあの一日が、自分の人生の中での幸せの頂点だったのではないかと思えるくらいの勢いだ。同僚や友達と過ごした楽しかった日々も思い出さないわけでもなかったが、とにかく今はエラがタイセイを癒す一番の薬だった。
『エラは今何しているのだろう…時々自分のことを思い出してくれているのだろうか…』
ドアのノックの音で彼の癒しタイムは強制終了させられた。
監視が夕食を部屋に運んできたのだ。その姿を目で追いながら、タイセイはまた長い溜息をつく。タイセイとしては当然逃げ出すプランをあらゆる方向で考えていたが、黒いスーツの彼らがその可能性をひとつひとつ潰していく。仮に彼らの目を盗んでこの家から逃れたとしても、味方ではないので香港の警察署に駆け込むことはできない。さらにスマホもパスポートもお金もない彼が、ひとりで香港の街並みを駆け抜けて、在香港日本国総領事館に逃げ込むことも、到底無理だと感じていた。
監視は夕食の皿を無造作にテーブルに置くと、一言も発せず部屋から出て行った。タイセイは癒しタイムを再開せず、いつも通りテーブルについて食事を摂ることにした。何が起きてもおかしくはない未来に向けて、今は自分の体を万全にしておくことの大切さを放棄しない。そんな冷静さはかろうじて保持していたのだ。