【完結】私に甘い眼鏡くん
目が覚めて最初に視界に入ってきたのは私の手に添えられた彼の手。
よく見ると手の下にはおそらく彼のものである黒いブレザーが、毛布代わりに掛けられていた。

重心が完全に夕くん側に寄っている。彼にもたれかかっていた。

起きたと思われたら嫌だ。

手のぬくもりを感じてそう思う。

でも、完全に覚醒した意識がまた睡眠に戻るとも思えない。

もぞ、とすると彼は手を引っ込めた。
私は硬直し、寝たふりを装う。


「‥‥‥」


軽く息をつく音。
再び重ねられた手を、私はもう片方の手で捕まえた。

無表情で動画を見ていた彼はすごい勢いでこちらを向いた。
とてもばつの悪そうな顔で、イヤホンを耳から抜く。


「‥‥‥起きてたのか」
「今起きた。ブレザーありがとう」
「スカートは脚寒そうだから。それより手を離してくれないか」


車内は少しひそひそ声がするものの、基本みんな寝ている。

私が寝ているときは優しくしてくれるのに、起きると急に冷たくなる彼に腹がたって、困らせてやることにした。


「嫌だ。このままがいい」
「‥‥‥勝手にしろ」


ため息をついた彼はまた動画を見はじめようとする。
自分に関心を持たれていないことにまた苛立ち、彼のイヤホンを一つ奪って片耳につけた。

ゲーム実況の動画だった。
私も名前くらいは聞いたことのあるRPGを、いい声の男性が楽しそうにプレイしている。

ちょうどクライマックスシーンだったらしく、私は話の筋を何も分かっていないのにいたく感動した。


「いい話だね」
「いい話だな」


こんなに無表情なのに感動はしているらしい。
そのまま二人で動画を見ていたら、あっという間に空港に到着した。


爆睡していた二人は急に元気になって、飛行機の中では大トランプ大会を始めた。

「負けたら自由行動の時間。みんなにソフトクリーム奢りな」というペナルティつきダウトは、五戦して全試合夕くんが一抜けだった。


「全敗‥‥‥」
「えーーっと、彩。今のは流れにして、ジジ抜きにしよっか」


全てが表情に出る私を見かねて、完全なる運ゲーにシフトしてくれた。

結果、奢りは夕くんに。


「納得できない。俺はダウト全勝したんだぞ」
「はーー東雲くんは器がちいせえなー。それじゃあペナルティはやっぱ彩だな。東雲がそういうなら仕方ないよな」
「‥‥‥いちいち癇に触る奴だ」


やっぱり、いがみ合いが板についている、


「二人とも仲いいねー」となっちゃんが茶化すと、「よくない」と同時に言う。

仲良しの証拠だ。

トランプに飽きた私たちは各々時間をつぶし始めた。


「彩見て! 空すごくきれいだよ!」
「すごい!」


窓の外に雲の海が広がっている、私もなっちゃんも飛行機が初めてだったから、ついはしゃいでしまった。

男子たちは隣でそっぽを向きあっている。


そしてようやく、沖縄に到着した。

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