【完結】私に甘い眼鏡くん

冬なのにぬるい風が肌をくすぐった。

晴天は私の期待していた沖縄らしさを十分に主張し、海沿いに生えているたくさんのヤシの木からは異国情緒すら感じる。


「ついに沖縄! って感じ! この暑さも沖縄らしくて最高!」


制服のブレザーを脱ぎだしたなっちゃんはすでに首元にじんわりと汗をかいていた。
だいぶ代謝がいいようだ。


午後三時過ぎ。
学年全員がそれぞれのバスで首里城に向かう。
私たちはなかなかのマンモス校なので一学年で相当な人数になるのだが、そこは展示場所をみる順番を変えつついいようにやっている。

一通り見学し首里城の前で写真を撮ると、数分だが自由行動になった。
なっちゃんと写真を撮った後、他にも仲の良い女の子と写真を撮る。

夕くんは一人で見学と思いきやちゃんと理系の男子に誘われて、一緒に館内展示を見ている。

本当に馴染めたんだなと思い、安心した。


一日目の日程は滞りなく進み、夕食は太一の提案したパフォーマンス付きの焼き肉店になった。
テレビでしか見たことのないダイナミックな肉に曲芸師のような手つきで調味料がトッピングされていく。

頬が落ちそうなほどジューシーで柔らかなお肉を楽しんだ私たちはご満悦でホテルに到着した。


部屋は二人一部屋で、私は入るやいなやフカフカのベッドに飛び込んだ。


「最高~~~~~~~」
「リゾートホテルだもんね。さすが私立、いいとこ連れてきてくれるわ」


そういいながらなっちゃんはさっさと荷物の整理を始めた。


「先お風呂入っていい?」
「いいよー」


着替えや洗顔料を持ってバスルームに消えたなっちゃんを見送ると、コンコン、とノック音が聞こえた。

ドアを開けると笑顔のゆみちゃんがいた。
文化祭で衣装のデザインを担当していた子だ。

仲が良い方とはいえ、突然の来訪に驚く。


「わ、どうしたの?」
「れいがもうお風呂入っちゃって暇だから来ちゃった! て、奈月も入ってるの?」
「今行ったところだよ。まあ入って」
「お邪魔しまーす!」


れいちゃんも文系の子。天真爛漫なゆみちゃんと違って、クールビューティーな感じ。私は密かに憧れている。


「ねね、今日男子の部屋とか行く?」
「え、行くわけないよ」
「え~行こうよ~れいも行かないって言ってるの!」


そりゃそうだ。私を男子が苦手とするなら、れいちゃんは完全に男嫌いだ。

優しい子だけれど、男子の中では怖がっている人も多い。
しかし逆にべた惚れしている人もいて、コアな人気がある。

要はナイスバディの美人で、性格きつめとなれば一定の需要があるというものなのだろう。


「連れて行けば?」
「無理だよ~~もっちー一緒に行こ? 太一とか仲良しじゃん!」
「いや、誘われてないし」
「えーー!? ほんと!?」
「え、そんなにみんな誘われてるの? 私ハブなの?」
「少なくとも文系女子はみんな誘われてたよ」


気を遣うようなゆみちゃんに少し申し訳なくなった。

そこでバスルームの扉が開く。着替えて濡れた髪の水分をバスタオルで抜きながら、なっちゃんが言った。


「あーそれ、私が言わなかっただけ。彩絶対行きたくないっていうから」


ゆみちゃんはなんだあ、とあからさまに安堵して、奈月も行くの!?と目を輝かせる。


「まあね。早く行って早く帰ってきたいから、ゆみも行くならさっさとシャワー済ませてよ」
「分かった!」


そう言ってるんるんで部屋を出て行った彼女を、私は苦笑いで見送った。


「そういうわけだけど、別に来なくてもいいよ。私は普通に太一に呼ばれたから行くけど」
「なにするの?」
「大トランプ大会」


さっきやったやつじゃん‥‥‥。

もう飽きたでしょ、となっちゃんが笑う。


「気が向いたらおいで。私ゆみとれいの部屋行って、そのまま行くから」


部屋の番号を告げ髪の毛を乾かし始めたなっちゃんの後ろを通り、私もシャワーを浴び始めた。
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