痛み無しには息ていけない
「所属事務所の発表によると、Yellさんは疫病に感染し都内の病院にて療養しておりましたが、症状は軽かったそうです。しかし元々白血病に感染しており免疫が下がっていた為、“これ以上悪化しないように”と瀉血法による治療法を試みたところ、副作用による失血性ショック死で今朝方亡くなりました」

「最低だ…」


ニュースはまだ続いていた。
失血性ショック死、…つまりは出血多量。花奏の亡くなった死因と同じだ。
……どうしてこうなった?誰の所為なんだ?
思わず唇を強く噛み締めたら、鉄臭い苦い味がした。
テレビを一緒に観ていた沙織が、こっちに振り向く。


「マコ、Yell好きだったの?あんまお笑いとか見ないって言ってたよね?」

「Yellさんは特別、サッカー好きを公言してたから。雑誌のベストイレブン企画の記事とかも読んでた」

「マジか…」


Yellさんはサッカーの強豪校出身だが、当然のように彼の後輩にはサッカー界の著名人が何人もいる。
先日観損ねた川崎のバンディエラ、元日本代表、スポーツイベントの招致委員のメンバー…。
正直言って都内は私立の学校の方が強いので、都立でこれだけ強ければ十分だと思う。

しかしYellさん、亡くなったか……。
確か来月頭には、Yellさんがスポーツ誌におろしていたJリーグについての連載が一冊のコラム本としてまとめられて、しかも書下ろしのエピソードも入れて、発売予定だった。
一昨日本屋に行って、予約してきてた。発売延期になるかもしんないな…。
Yellさんのサッカー連載は、経験者を納得させる技術面にも切り込んでいるのは勿論、初心者が取っ付きやすいチームマスコットやスタジアムグルメにも広く触れられていて、どんな人でも楽しめる連載として愛されていた。


「……どうしてこうなった?誰の所為なんだ?」

「マコ?」

「白血病なら血が止まらねーって分かってんだろ!何で瀉血なんか試した!?白血球も血小板も足りてねーんだから」
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