痛み無しには息ていけない
「おーい、今日の担当割り振るぞー。小川~、高橋~」


渡辺さんに呼ばれたが、怒りとやりきれなさで止まれない。
呼ばれたものの自分を放置出来ない沙織は、行こうにも行けなくてオロオロしている。


「瀉血によって亡くなったとか、瀉血の出血多量で亡くなったロビン・フッドか!」

「小川さん!!」


怒りのあまりにテーブルをぶっ叩き、右手に青痣が出来る。
それに構わずもう一度テーブルをぶっ叩こうとして、強く遮られると同時に、右腕を後ろから強く掴まれた。
自分が思わず振り返ると、いつの間にかに喫煙室から出てきていた吉田さんが片手に缶コーヒーを持ち、もう片手で自分の腕を掴んでいた。
自分が暴れなくなったので、沙織は急いで渡辺さんの指示を聞きに行く。
吉田さんに握られて隠れている、右腕の大きな裂傷の痕。


「大丈夫ですか?…ほら、コレ飲んで、少しは落ち着いて下さいよ」


そう言って吉田さんは、持っていた缶コーヒーを差し出してくる。
自分がよく休憩中に飲んでいる銘柄の、微糖のコーヒー。
自分は握られていない左手をおずおずと差し出し、缶コーヒーを受け取る。


「……ありがとうございます、頂きます」

「俺はサッカー全然分かんないですけど、それでも良かったら話聞きますから」


どうやら吉田さんは喫煙室に居ながらも、自分がやりきれない理由を知ってたらしい。
右腕を離しながら、ニコッと微笑んでくる吉田さん。
……くそぅ、自分は吉田さんの、こういうトコロが……。


「マコー?今日、荷物の梱包だってよ。早くしないと遅れるよ、大丈夫?」

「…分かった。大丈夫」


渡辺さんから指示を受けた沙織が、心配そうに戻ってくる。
右手にテーブルを叩いて出来た青痣が、その腕には古い裂傷の痕と、吉田さんに握られた赤い痕が残っていた。
自分は吉田さんから貰った缶コーヒーのプルタブを開けた。いつものほろ苦い味がした。
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