痛み無しには息ていけない
いつも通りに口にソーセージを入れようとして…、入らない。
そういえば、マスクしてるんだった。
急に耳の痛さを、鼻や顎の蒸し暑さを思い出す。痒い。


「息苦しいんだけど…」


マスクをすると、当たり前のように息苦しい。
この疫病の二次災害で、酸欠の報道が無いのが不思議なくらいだ。出血多量で亡くなる報道はあるっていうのに。
――Yellさん、本当に残念だったなー…。


「コレ何ー?」

「コレはね、ソーセージ」


気付いたら、目の前に一組の親子が居た。
買い物籠を持つお母さんは勿論、3歳くらいの男の子もマスクしている。


「コレはね、新しく出来たソーセージなの~!」

「食べてみたい!」

「宜しいですか?お坊ちゃん、アレルギーとか何かございますか?」


子ども相手にニコニコ喋ってた自分は、急にお母さんの方を向いて確認する。
間食し過ぎると満腹になってご飯食べなくなるお子さんもいるし、食物アレルギーの発作を起こす可能性もあるから、子どもが商品を食べたがった時の保護者さんへの確認は絶対である。


「あ、大丈夫です。…ソーセージ、4種類あるんだって!どれにする~?」

「お子様にでしたら、辛味がマイルドがこちらがオススメです!」


商品を素早く確認してくれたお母さんに対し、一番ベーシックなタイプのを提案する。
自分が、その商品のソーセージを一つ取って、子どもに手渡している間に、“熟燻”と書かれた商品を手に取ってみているお母さん。
男の子は自分でマスクをずらし、渡したソーセージをそのまま口に含んだ。


「美味しい!」

「美味しい?ホント?良かった~」

「私も良いかしら?」

「勿論です!どうぞ」


自分は男の子が食べたソーセージの爪楊枝をゴミ袋に放り込み、如何にも善人そうな喋りでセールストークを展開する。


「加熱するだけで簡単に、今晩のおかずが一品出来ちゃいます!是非いかがですか?個人的にはコレでご飯も食べられますね」
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