痛み無しには息ていけない
「あ、先程はありがとうございます。休憩ですか?」

「ううん、上がり。私、今日は午前中だけだから」

「そうなんですね。お疲れ様です~」


レジ担当の人はよく見ると、あまり自分と年齢が変わらないように見える。
その人は自分が紹介してるソーセージの中でも比較的スパイシーな商品を手に取り、じっくり見始めた。


「ウチね、5歳の子がいるんだけど…、どれが良いと思う?」


お子さんいるのか!それなら確かに、土日は長時間は働けない。
自分はさっき親子連れが買っていってくれたマイルドな商品を選び、手渡す。


「それならコレ!さっきも親子連れも買っていってくれたし、小さなお子さんでも召し上がれるかと!」


加熱済みのソーセージを手渡し、味を確認してもらう。


「あら、ホント!これならウチの子も食べられるわ」

「良かったです~。因みに、さっき手に取られてたのはコッチで、味はだいぶ辛いんですけど、酒のツマミには良いかと…」


スパイシーなソーセージも手渡し、試食してもらう。
レジ担当の人はソーセージを食べながら、クスクス笑い始めた。


「確かにお酒のつまみ向けね。日本酒以外なら美味しそう!…というかお姉さん、商売上手ね」

「あはは、ありがとうございます。こういうのは、自分の実体験や感想を率直に伝えた方がユーザーにも共感してもらいやすいって、相場が決まってます」

「確かに」


レジ担当の人は、そのまま2種類のソーセージを買っていってくれた。
どうやら、“酒のツマミ向け”という紹介に、よほど共感してもらえたらしい。
酒呑みも、たまには悪くない。

……そこまで考えて、煙草の仕分けの方での先輩や上司である、吉田さんと渡辺さんの顔が頭に浮かんだ。
あの二人は、正真正銘の酒呑みである。むしろ飲んだくれ。
…あの二人にも今度、このソーセージの存在を教えてあげよう。
“他の商品より割高じゃねーか”って言うかもしれないけど。
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