痛み無しには息ていけない

~弐~

「お疲れ様でーす」


擦れ違う人全員に声をかけながら、バックヤードの精肉コーナーに向かって、可動式テーブルをコロコロと押しながら移動する。
時刻は18時過ぎ。無事にソーセージの売上も伸びた事で残業も無く、こうして片付けしている。

因みに今日、自分が売り上げたソーセージは、4つの味合わせて150パック以上。
割高な値段設定の高級ラインで、しかも疫病の影響であらゆる物事が自粛ムードになってる事を考えると、なかなか頑張ったんじゃないかと思う。
…普段、サッカースタジアムで声張ってチャント歌ってるのが役立ったかも。

……しかし、疫病の影響、やはり大きかったな。
保護者の方に抱っこされてる子ども以外、全員マスクしてたしな。
確か、“2歳未満の子どもにマスクすると、生命の危機に関わる”って医療機関が発表してたから、それ以外は皆マスクしてた事になる。


「お疲れ様です。いやー、頑張ってたね」

「あ、ありがとうございます」


精肉コーナーの片隅で片付けをしてると、担当さんが様子を見に来た。


「開封してしまった商品は捨ててしまって大丈夫です。余った爪楊枝と紙皿はください」

「…開封した商品、貰っても良いですか?」

「……衛生的な責任は、一切取れませんよ」

「あは、ありがとうございます」


自分は余った紙皿と爪楊枝を担当さんに渡しつつ、開封済みのソーセージをまとめて、鞄に突っ込む。
……確実に食い意地が張ってると思われたな。でもこのソーセージ、美味いんだもん!かと言って割高だから、自腹で購入するにはしんどいし。


「あ、日報にサインを御願いします」

「分かりました。…また次も、宜しく御願いしますね」

「ありがとうございます!」


日報の“担当者”欄にサインを入れてもらう。
派遣会社によって違うとは思うが、自分の所属している会社の日報は、売った商品とその値段、PRの方法、売れたおおよその数、売った時の手応え、それと担当者さんと店側のサインを入れる事になっている。
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