痛み無しには息ていけない

~壱~

「はい…、はい…、分かりました。そうしたら、再開した暁には、また必ず連絡をお願いします。お疲れ様です」


喋ると両頬の皮膚が引き攣る。
自分は電話を切ると、欠伸と伸びをしてから、やおら朝食の準備を始めた。

今の電話は、試食販売の派遣会社から。
都内での疫病の流行を受けて、暫く業務停止となるらしい。
――今回のこの疫病、空気感染らしいから、人が集まろうと何しようと、正直感染する確率は変わんないじゃないか?……というのが本音である。
むしろ、近年は至る所に空気清浄機が置いてあるのに、どうしてこうも感染者は増えているんだろう…?

お米を研いで、炊飯器にセットする。
あとは暫く放置。炊飯器が全自動で頑張ってくれる。
その間に、トマトをレンチンして、卵と一口大に切ったベーコンを混ぜ、簡単な卵焼きを作る。
自分の作る卵焼きは、ピザ用チーズをかけて焼くのがポイントである。ベーコンは別に、ハムでもソーセージでも美味い。卵も半熟でも、固焼きでも美味い。
…因みに先日の仕事で残りを貰った高級ラインのソーセージは、無事にその後二日間のご飯のおかずになって、既に消費されてしまった。
くっ…、あのソーセージ、また食べたいから、次の仕事行くの期待してたのに。自腹で買うには高い。
試食販売、暫く無しかぁ……。

電子レンジがトマトを加熱してくれ、暫く冷ましている間に、ベーコンを一口大に切る。
加熱されてグズグズになったトマトが冷めたら、それに卵と切ったベーコンと塩コショウを多めに入れ、よく混ぜる。
最後にピザ用チーズを多めにかけ、再び電子レンジへ。加熱が短ければ卵が半熟のトロトロだし、長ければ卵は固焼きだが、チーズがとろける。
そのままインスタントコーヒーでアイスコーヒーを作り、テーブルまで移動して、スマホを見る。
時刻は9時37分。今日は煙草の仕分けだからもう少し寝ていられたけど、派遣会社からの電話で叩き起こされた。
< 26 / 56 >

この作品をシェア

pagetop