痛み無しには息ていけない
一人で暮らすようになってから、“動植物の生命を戴く”という意味に加え、“料理を準備してくれた手間に対して”も、「いただきます」というようになった。
独り暮らしで誰も聞いてなかろうと、これだけは欠かせない。

元から自分はかなりの面倒くさがりなので、何かに集中したり、面倒だったりすると、どんなに空腹でも、ご飯を作りたくない為だけに、食事を抜くようになった。
正月の頃など、仕事が連休だったのを良い事に、丸二日間も飲み物とスナック菓子だけで過ごしたっけ。
だからこそ、誰かにご飯を作ってもらう手間に、本当に感謝するようになった。


スマホの通知やネットニュース、各種SNSを確認しつつ、中華麺をモシャモシャと食べる。
食材や手間に感謝するようになっても、昔から変わらず行儀は良くない。
立ったままは勿論、下手すると歩きながらでも平気で食べてたりする。


「御馳走様」


最後にスマホで今日の天気予報と気温を確認して、飲みかけのコーヒーを一気飲みし、立ち上がった。
食べ終わった食器を台所の流しに入れ、そのまま入浴の為に浴槽にお湯を溜めようとして、先にシャワーで軽く洗い流す。
自分は汗っかきなので寝汗の量も多く、また出勤前にどうしても身体を洗い流したい理由があって、朝風呂派である。


そのまま浴槽にお湯を入れ始め、何気なく鏡を覗き込んだ。


……あれ、額が赤い?

よく見直そうと思って、真っ黒な前髪をかきあげ、まじまじと鏡を覗き込む。
髪の生え際を中心に、額全体に、無数の小さな引っ掻き傷が広がっていた。


「うわー…」


枕に小さな血痕が広がっていた理由は、コレか。
汗とか、髪洗う時とか、めっちゃ染みそうだなー…。
注意しよ。

自分が朝風呂派なのは、コレが原因だ。
痛みを伴う悪夢を、頻繁にみる。
すると寝起きに無数の引っ掻き傷が広がっている事が多く、目が覚めると腕が血塗れで、下手するとシーツには無数の血痕が広がっている事も多い。
そのままだと確実に不審がられるので、出勤や外出前に、確実に洗い流さなければならない。
もう、5年以上もこんな生活を続けている。
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