痛み無しには息ていけない

着替えの準備をし、浴槽に湯が張ったのを確認して、お風呂に入る。
顔と髪を洗う時には、細心の注意を払った。

風呂から上がって適当に歯を磨いてると、奥歯の歯肉が腫れてたのか、少しだけ出血した。
…もう、血が止まんねーじゃん。

風呂上がりは、なけなしの女子力を振り絞り、顔の保湿とヘアオイルを塗ったくる。
3月頭にも関わらず扇風機を回し、髪を自然乾燥させつつ、スマホを弄りつつ、電子煙草を吸った。


自分は煙草の仕分けセンターで働いてるにも関わらず、普通の紙巻煙草や、加熱式煙草は吸わない。
代わりに、先に欧米で流行ったと言われている、Noニコチン･Noタールの電子煙草の御世話になっている。
口寂しいのだ。やりきれないんだ。
スレてるフリをしないと、やっていけなかった。
もう、5年以上前の、あの日からずっと。


12時半になり、ノソノソと出勤の準備を始める。
今日は途中で、サッカーのチケットを買っていかなくては。

小さい頃からサッカー･Jリーグが好きで、特に故郷である神奈川県内のクラブを広く応援している。
特に好きなのは、クラブの歴史が、J100年構想に近い、川崎市内のチーム。
今日購入予定なのは、来週末に開催される、川崎vs名古屋のチケット。


自分は荷物を詰めて、そのまま出掛けようと玄関まで向かい、マスクを取りに戻ってきた。
開封して装着する訳でもなく、ただ未開封のまま、鞄に突っ込む。

花粉症でも風邪でもマスクはしない。
けど、今の御時世、都内じゃマスクしてないと、白い目で見られる。
――――自分の場合、有ったら息苦しいし、無くても絶対に悪化しないんだけどな。

そのまま玄関までトンボ返りし、家の鍵とチャリの鍵を取って、家を出た。
住んでるアパートを出ると、道行く人達は全員マスクしている。
自分は素知らぬ顔をして、そのまま駐輪場に向かった。