痛み無しには息ていけない

~壱~

休憩所の適当な椅子に座り、手に持っていた缶コーヒーのプルタブを引き上げる。
今朝出来ていた右手の小指側の青痣が痛んだ。


「……ってー…」


明日から連休なのに、こうして地味に怪我するとか、不便の極みである。
…まぁ、どうせ何処も自粛だろうけど。
しかし痛がってばかりもいられない。
缶コーヒーを一口啜り、社員さんの出欠席の一覧を何気なく眺めた。
出勤を示す白い名札の中で、渡辺さんの名札のみが赤いのが、一際目立った。
……渡辺さん、休み?どんな病気でもアルコール消毒してそうなくらい、普段から酒呑んでるのに。


「あれ?渡辺さんは?」

「あ、休みです」


ちょうど出勤してきた吉田さんに声をかける。
吉田さんが即答したって事は、事前に有給でも申請してたんだろうか?


「……どーせ明日から連休なんだし、わざわざ休まなくても。どーせあの人のコトだから、呑んだくれるんでしょーし」


このアル中が、と思わず呟く。
今日一日くらい、頑張れば良いでしょうに。明日から連休なんだから。


「いや、お見合らしいですよ」

「……は?お見合?」


吉田さんから予想外すぎる言葉が返ってくる。


「…ええ。渡辺さんの親御さんが、渡辺さんを結婚させたがってるのは知ってますか?」

「…本人から聞きました」

「で、この連休で集中的にお見合いさせるつもりみたいです。……まぁ、本人に結婚する気が全く無いようなんで、何の意味も無いんですけど」


早くお孫さんの顔が見たいんでしょうかねぇ、と続ける吉田さん。
渡辺さんの親御さんの話も、渡辺さんに結婚の意思が無い事も、自分は知っていた。
あの人は其処らへんの責任を負わずに、もっと自由を謳歌したい人だ。
けれども、周りの環境がそれを許さないらしい。


「本人の意思、完全に無視してるじゃないっすか」

「そうなんですよね」

「それじゃ、お見合いする相手も可哀そうに」
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