痛み無しには息ていけない

~壱~

目が覚めたら既に気温は高くなっていたようで、汗ばんでいた。
枕元のスマホで時刻を確認して、その表示に青ざめる。
14時。


「やべっ…寝坊したー!」


思わず叫び、煙草の仕分けセンターに連絡しようとしてから、今日が休みだったと気付いた。
…そうか。休みだったから、目覚ましもかけずに寝てたのか。
その割には、特に熟睡した感じも無く、いつものように悪夢にうなされただけだけど。

ようやく安心して、大きく伸びをしたら、両腕が痛い。
ふと見てみると、両手首にリストカットしたかのように、長めの引っ掻き傷が1本ずつ増えている。
布団の両サイドの、手首が当たってそうな所に、小さな血痕が幾つも散っていた。

取り敢えず遅すぎる朝食の準備をしようとして、台所と冷蔵庫を確認する。
ご飯は炊いてない。作り置きのオカズと、冷凍食品のフライ、レトルトカレーが残っている。
カツカレーならぬ、フライカレーでも食べるか。
そう思って、ノソノソとお米を洗う。
そのまま炊飯器にセットして、インスタントコーヒーでアイスコーヒーを作り、モソモソと移動する。


そのまま、今朝見た悪夢を思い出す。
両手首が痛んだ。

確かに彼女――花奏は、自分も一緒に居たあの交通事故が原因で、出血多量で亡くなった。
しかし花奏が命を落とした瞬間には、自分は治療中で意識が無く、また同じ病院でも違う治療室に居たので、決して見殺しにしたわけじゃない。……と思いたい。
…と言うか、自分が花奏を見殺しにする訳が無いのだ。
あんなに仲良くしてもらってたのだ。否定したり、見殺しにする理由が無い。
何故だか涙が出てくる。治りかけのいつかの頬の引っ掻き傷に染みた。
……いや、本当は涙の理由なんて、分かりきっていた。
もうこの世の何処を探しても、花奏は居ないのだ。何処にも居ない。
涙はそのまま両手首に落ちて、今朝新しく出来てた引っ掻き傷に落下して染みた。
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