痛み無しには息ていけない
そのまま黙々と段ボール箱を組み立て続ける。
ただでさえ今日は一人少ないんだから、テキパキと組み立てなくては。


「マコさー」

「何ー?」


沙織が声をかけてきた。
自分を“マコ”と呼んでくるのは、少なくともこの職場じゃ、沙織しかいない。


「マコはどうしても、マスクしないんだねぇ」

「…だって、必要無ぇもん」


確かに今は風邪やインフルエンザのシーズンの最後だし、花粉症も始まってるけど。
それ以外にも、この“東京”には、皆がマスクしている理由があった。


最近、この東京には、原因不明の病が流行っている。
医療機関の発表によると、空気による感染の可能性が高く、感染から2日程度で発症。
発症すると高熱、吐き気及び嘔吐、下痢、痒みを伴う吹き出物が出る。
場合によっては、肌が弱い人は吹き出物の痕が残る事もあるそうだ。
最悪の場合、熱による急性壊死性脳症により、死に至る事もあるらしい。
また、空気感染を防ぐ為に使うマスクの影響で、酸欠になる人が増えているらしい。

予防法はよく笑う事、重症化を防ぐのは自傷行為が有効らしいが…。
自傷行為で重症化を防ぐとか、何て迷惑で痛みしかない病気なんだろう?
ただ、この治療法には問題があって、特に凝血が弱い白血病患者は、瀉血や自傷行為による失血死に陥りやすいそうだ。

日本の首都・東京でこんな原因不明な病気が発生した為、政府は既に二次災害の都市機能停止を危惧している。
また、東京及びその周辺地域では、あらゆる職種やイベント開催、学校までが機能停止に追い込まれていた。


――――そう、だから皆、マスクをしているのだ。
マスクしてないのは、忘れてしまった人、洗濯が追いつかない人、そして自分のように理由あって感染の恐れが低い人くらいである。

自分が感染の可能性が低いのは、両腕、そして今日に関しては額にまで広がる無数の引っ掻き傷があるからだ。
夢の中で傷付けているので、直接“自傷”とは言い切れないけど、きっと何かの関係はある筈だから。
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