あやかしの集う夢の中で
「あっ、あそこに人間の魂がいやがるぜ。

抱き合いながら道端で寝転んでいやがる」



「本当だ。

見せつけやがるぜ。

ああいう奴らはこのオレ様が成敗してやらなくちゃな」



赤色と青色の大きな二体の夢妖怪が桜介と愛理を見つけて、不気味に笑いながら話していた。



そしてその二体の夢妖怪たちは巨大なこん棒を片手に桜介と愛理に迫っていた。



(こんなときに夢妖怪が来るなんて……。

敵は五メートル級でおそらく強い。

でも戦わなくちゃ……。

今戦えるのは私しかいないから)



愛理の小さな胸の中には大きな不安が渦巻き、愛理はその不安に押しつぶされそうになっていた。



でも、どんなに大きな不安を抱えようとも戦わねば確実な死が待っている。



愛理は戦うことを決断し、桜介から少しだけ体を離した。



するとそのとき、愛理の下にいる桜介がモゾモゾと動き、急に大きな声が話し始めた。



「ぬわっ、愛理!

どうしてオレと愛理が抱き合ってんだよ!

オレが寝てる隙に何かしたのか?」



もう意識が戻らないかもしれないと思っていた桜介がパッチリと目を開き、驚いた顔で愛理を見ていた。



桜介と愛理の顔の距離は三十センチしかなくて、二人がこの距離で見つめ合ったのは初めてのことだった。



桜介の声を聞いた愛理は、自分が桜介と抱きしめ合っていることが急に恥ずかしくなって、桜介から離れて立ち上がった。



「こ、これはそのう……。

事情があってのことだからね。

勘違いしないで。

私は桜介に何もしてないんだから!」



「でも愛理。

オレたちは今、抱きしめ合っていたわけで……」



「うるさい!

そんなことよりも五メートル級の夢妖怪が来てるよ。

立てるなら早く立って。

モタモタしてたら敵が来ちゃう!」



愛理は話しずらい内容から話題をそらすと、五メートル級の夢妖怪、二体をにらみつけ戦闘体勢に入っていた。



そして桜介も力強く立ち上がり、瞳にまた輝きを見せながら、巨体の夢妖怪と戦う準備を整えていた。
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