不細工芸人と言われても
とはいえ実は奥手
俺たちのコンビ名「グリルチキンスター」が入った「ゴールデングリルチキンスター」というバラエティ番組は、このところ高視聴率をキープしている。

最近、急に辞めたスタイリストのアシスタントの代わりに新しい娘が入ってきた。
俺は、撮影の前の衣装合わせがたまらなく待ち遠しくなってしまった。
なぜなら、最初見た時から好みのタイプだから。

彼女は、なかなかテレビの現場に慣れず、少し戸惑っているようだった。
他のスタッフと話しているところをチラッと聞いたのだが、以前は子ども向け雑誌のアシスタントをしていたらしく、全く勝手が違うようだった。

桜山 果歩

彼女から名刺をもらって、名前を知る。
「さくらやま」が何気に言いにくいので、みんなスタッフもカホと呼ぶようになっていた。
ショートボブに大ぶりのシルバーの輪っかのピアスに、ざっくりと着こなした白のシャツにボーイフレンドのデニム。
化粧っ気はないが、素肌が綺麗なんだな。
本当は俺は昔から少しボーイッシュな女の子がタイプなんだ。

営業キャラ的には、巨乳専門の風俗好きでキャバクラのお姉ちゃんが大好きという事で通っているけれども、まあ、それも好きなんだが、本当は昔から中性的な透明感のある感じの子が好みなんだ。
カホは、そう言った意味でもどストライクである。
俺と合い方の芸人としての衣装のスタイルは決まっていて、シャツにスーツ、ネクタイをその時々のスポンサーのブランドや流行のものをリンクコーデするかたちになっている。
その柄は季節やテーマによって変わるわけだけれども、カホは、いつも蝶ネクタイをつけて整えてくれたりするわけで、俺にとってはその瞬間がたまらなく至福の時なのだ。
一番距離が近くなる瞬間。
真正面に向き合い、カホの真剣な眼差しが俺の首元に向けられる。
俺は、目を合わせないようにタイミングを見計らってカホを盗み見する。
か、かわいい。。。


「いってらっしゃい」
もし俺が普通のサラリーマンだったとして、普通に結婚していたらこんな風に毎朝ネクタイを結んでもらいたい。。。。とか妄想したりして。
にやけそうになるのをこらえて、ついついムスッと機嫌悪そうな顔をしてしまう。

前に、番組のADに悩みを打ち明けているところを聞いたことがある。
「私、ホントは、ファッション部門を希望していて、なんだかテレビ業界の人とどうやって接していいかわからない時があるんです。」
「そんな気にしなくたっていいよ。みんなカホの事かわいがってんじゃん。」
「………うーん。なんていうかカメラの前のテンション高い時とそうじゃない時のギャップが。」

ああ、まさにそれ。
普段はちっとも面白くないしな。無口だし。
挨拶されても、二日酔いだと無愛想だし、反省しきりだ。
カホは、明らかに俺のことも苦手に思っているに違いないだろう。

「今はさ、いろんな芸能人と接する勉強の期間だと思うよ。カホのとこの社長は、ひと通りいろんな経験を積ませる方針だろ。 いずれはファッションに行くんじゃないの?希望してるんでしょ?」
「はい。 あ、でもすごく今の現場好きですよ! 楽しいです。」


ふううん。そっか。
でも、今はちょっと不本意なんだろうな。
まあ、確かにスタイリストの醍醐味は、そっちにあるだろうな。 テレビは、衣装でしかないし。
でも、なんか悪かったな。
逆に意識するあまり、 彼女に対してちょっとぶっきらぼうに接してしまっていたかもしれない。
慣れない現場にやりにくさを感じていたら申し訳ない。

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