不細工芸人と言われても
ある日、マネージャーが血相を変えて、楽屋にやってきた。
「どうしたよ?」
相方のカドはきょとんとして、タバコをくわえたまま火をつける手を止めた。

「高岡、おまえにすごい仕事が来た。」
「え」

「巨匠、小宮山監督の映画に出る!」
「えええええええ¥¥¥! なななななんで?」

「監督直々のオファーだよ。 この役、お前に絶対頼みたいって。」
台本を広げ、配役のところに〇が付いている。

カドが、口に出して読む。
「ストーカーの男」

俺はガクッとうなだれ、カドは爆笑する。
マネージャーも笑いをこらえて言う。
「セリフもほとんどないらしいから、とにかく動きと仕草だけで物言う感じなんでって助監督さんが言ってた。」

初の俳優デビューである。
断るも何も、もう決まってる話。

しかし、台本を読めば読むほど、恐ろしいことにこの役の男の気持ちが手に取るようにわかってしまう。
演じなくたって、素でいけそうだ。
主人公の女の子をカホに置き換えてみて、この役の男のように盗聴したり後をついて回ったりする事ができるのであれば俺だってそうしてみたい欲望がある。
そして、見ているだけじゃ物足りず、どこかに自分の足跡や爪痕を相手に残したいという欲望も理解できる。

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