不細工芸人と言われても
良い人であれば、もしかしたらずっと
夜遅くに帰って来て、いつも寄るコンビニがある。
キャップにロン毛をひとまとめにしてかぶり、メガネを取っていれば、はっきり言って気が付かれない。

その日は、これから東京にけっこうな集中豪雨がやってくると予報で言っていた。
まだ、雨は降り出してはいないが、ちょっと強めな生暖かい風が吹き始めていた。

そこで初めて肩を叩かれて、あ、バレた。
一般人の誰かに、俺だってバレたと思ったら、振り向くとそこにはニコニコしてカホがいた。
この間俺があげた浅葱色の麻ニット帽に白のコットンロングワンピースが夏らしい。

「こんばんは! 初めてご近所で偶然会いましたね。」
「おう。今、帰り?」
なんて今日は良い日なんだ。
「うん。」
「遅いな。何時だと思ってるんだ。」
「また、お父さんみたいな事言うー。この業界ではてっぺん回るの当たり前ですよ。」
「お父さん言うな!」
「ごはん、まだなんですか?」
「あまりにも忙しくて、昼も夜も食いそびれた。 」
「不摂生だなあ。ってお父さんの心配をするっていう感じ?」
「おまえなー、せめてにいちゃんにしろ言ったろうが!」
カホは笑う。
いつのまにか俺たちはこんな軽口叩くような間柄になっていた。
「かぶってくれてんの?今日みたいなワンピースにも合うね。かわいい。」
カホは、少し顔を赤くして肩をすぼめる。
「なんかすごく気に入っちゃって。それになんだかコレかぶってるといいことあるんだ。だからここぞという時はねお守りみたいなもの。」
「へえ、どんな?今日は何かそういう事があったの?」
「うん。まあね。」
カホは、へへへと意味深な笑いをしてごまかす。
「なんだよ。教えろよ。」
「内緒。」
少し舌を出して、いたずらっぽい表情がニクい。

「カホちゃんもまだごはん食べてないの?」
カホの買い物かごにおにぎりと飲み物が入っている。
「残業してたから、夜はまだです。」
「良かったら、一緒に食おう。 そんなんだから余ったロケ弁持たされたんだ。もったいないからって。高級焼肉弁当とすき焼きもあるぞ。」
「なにそれ!お金持ちの番組ですねー。」
「映画は違うぞ。しかも小宮山組の映画の弁当は。」
「わーい!行く行く。ごちになります!」
カホはおにぎりとかを棚に戻し、代わりにビールとかちょっとしたおつまみを一緒に選ぶ。

夜中に普通にマンションの部屋に誘って、なんの抵抗もなく俺に着いてくる。
その状況にモヤモヤしながらも、まあ、いっか、信用されてるのも悪くない。
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