不細工芸人と言われても
「高岡には、思っている人がいる。っていうのも、わかってるから。」
俺は、目をそらして苦笑する。
「アホか。 行きつけの俺がいつもご指名しているお嬢のことか?」
よしのは、その小さい目で俺を睨みつける。
「そうやって、自分をごまかす。」
なんなんだよ。 説教かよ。 マジ、逃げ出したくなる。

「ふとした時? 例えばさ、ロケで一緒にモンゴルの高原みんなで行ったじゃん? スッゴイ星空が綺麗だった。」
「?……ああ。それが?」
「高岡は、空見上げて、そんでその誰かを思い浮かべるんだよ。 たまにそういう表情を見せる。」
「なんだよ。それ。」
俺はなんか恥ずかしくなって、顔が紅潮するのがわかる。

「ロケでちょっと時間があまった待ち時間とかで、おみやげ選ぶときもその人のことを考えている。」
俺はあまりにも図星でドキリとする。

「私は、その人が羨ましい。」
まいったなー。
俺はどうにかこの状況から脱却したくて、おもしろいこと言ってやろうと思うと何も言葉が出てこなくなる。

「思いつめてないで、その相手にぶつかることだよね。 私みたいに、叶わないってわかっててもさ。」
俺はムッとして
「わかったような言い方すんなよ。」
「だって、それじゃあ私が報われないじゃん。」
「なんだよ、それ…………意味わかんねー。俺は、今のままでいいんだよ。ずっとこの業界にいて、たまにこうやって馬鹿騒ぎして仲間と飲んで、女が恋しくなったら買えばいいし。それが楽だし、一生これでいいんだよ。」
「ばっかじゃないの? なんかトラウマでもあるわけ? 」
「別に。ただ、これでメシ食ってくって決めた時に、フツーの恋愛とか結婚とかは諦めたんだよ。責任もてねーし。」
「売れなくたって結婚してる芸人なんかいっぱいいるじゃない。しかも、あんたたちコンビは絶好調じゃないのよ。稼ぎだってある。 そんなに卑屈になることなんかないんじゃない?」
「っるせーな。 卑屈じゃねえよ。 俺が、これがいいって選んでんの。」
「ふうううん。」
「しかも、俺は今結構人生で一番女に困ってないの。一人になんか決めるのもったいねーの。」
よしのは、冷たい目で俺を見て、ビールを煽り吐き捨てるように言う。
「情けないわ。そんな男に惚れてると思うと。」
「ああ? そんなん、お前の勝手だろうが。」
「そおいう考え方が、イケてるとでも思ってるのね。格好つけちゃって。そんで、実はそういうのメチャ格好悪いっての本人が気付いてないっていうね。」
「お前、いーかげんにしろよな。」
「じゃあ、そんなに女なら誰でもいいなら、私のこと抱きなさいよ。」
「アホか。勘弁してくれよ。」
「ひどい。」
「ごめん。」
「私は、高岡がちゃんと好きな人とうまくいっているなら、振られても納得がいくの。遊び人とか悪い男になりきれないくせして、そんなの私、納得いかないの。」
「知るか。」
どいつもこいつもなんなんだよ。
「ただ傷つくのが怖いだけなくせしてさ。」
「うるせえよ。」
図星なだけに俺は腹がたつ。
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