不細工芸人と言われても
ここのスイートのバスルームは、全面海に面していてガラス戸も開けられてまるで海の見える露天風呂のようにジャグジーに入ることができた。
「きゃあ素敵ー!ねえ、見て見てすごいお風呂!」
「お前は、素っ裸ではしゃぐな。滑って頭打つぞ。」
「だって、すごい。海がキレイ。ありがと。ホントにこんな素敵なとこ連れてきてくれて。」
カホが、嬉しそうにしているのを見ると俺も嬉しい。
これからずっとそれを守るためには、俺もいろんな事を腹くくらないといけないよな。

カホを後ろからハグするようにして、二人でジャグジーにつかって、青い水平線を一緒に眺める。
「海外のリゾートにいるみたい。」
「ん。」

俺はゆっくりとカホの素肌に手を這わせる。
「あ、それからすぐに日帰りでもいいから福岡に行こう。」
「なんで?」
「そりゃご両親にご挨拶に。」
「今、福岡には90歳のばあちゃんしかいないよ。」
「え!そうなの?」
「うん。私の両親は、今シンガポールにいるよ。」
「マジか?カホの親は何をやってるの?」
「シンガポールで、クリニックを開業してる。」
「すげえな。」
もしかして、すごいお嬢様なんじゃねえの?

「それじゃ、なかなか行けないし、入籍はだいぶ後かなあ。」
「そういうものなの?」
「へ?」
「別に承諾なんていらないよ。多分、私が事後報告しても、あ、そう、アンタが選んだ人なら間違いないわねって言うと思うけど。」
「放任主義なの?」
「まあ、そういう感じかなあ。うちの両親もそれこそ勝手に思い立ってシンガポールでビジネス始めちゃったしね。決めたことに自分で責任を持てばうちは何も言わないよ。」
へええ。しかし、なんとなく納得。 根底にあるカホの自己肯定感はここにあるんだな。
「じゃ、ホントにすぐに婚姻届出しちゃっても構わないんだ?」
「うん。でも、なんでそんなに焦るの?」
「そりゃあ、堂々と二人で街歩きたいし。カホに変な虫ついたら困るし。俺、おっさんだし。とにかく早く公認にしたいの。」
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