不細工芸人と言われても
食事を終えて、夜の海岸をゆっくり散歩しながら、ホテルに戻る途中、俺はやっと口を開いた。
「カホ。」
「ん?」
手を握って歩いていた脚を止めて、ゆっくり深呼吸する。
「前にさ、芸人の仕事なんて、タブーギリギリ。プライベートだって切り売りして、おもしろけりゃ何でもありって言ったことあっただろ?」
「うん。」
「俺と結婚したら、カホの生活も、ある意味そういったリスクを背負うかもしれない。 」
「…………………。」
「世間はおもしろおかしくしてイジるか、誹謗中傷して炎上させるか、いつでも隙を狙って手ぐすねして待ってるから。 俺は、それが怖くてお前ときちんと向き合うのを避けていた。」
「…………………。」
「おまえの言う通りズルいんだよ。俺は。。。」
話をしていてイヤになる。
無頼なフリも適当な人間を装うことも遊び歩いてフラフラしていることも全て逃げる口実だ。
カホは、キュッと俺の手を握り返して、立ち止まる。
暗い海岸沿いでカホの表情はよく見えないが、俺の真正面に立つ。
カホは、飛びつくようにして、俺に抱きついて俺の背中に手を回してぎゅうっとする。
「大丈夫。あなたは、そのまんまで自然体でいればいいんだよ。」
「え。」
「私のことも隠さないでいいし、思った事あった事なんでも芸人としてさらけ出せばいいんじゃないかな。私のことは心配しなくていいの。高岡の嫁って言われても、いじられてもネタにされても構わないよ。仲良しなとこ世の中に見せつければいいじゃない。」
「………………………。」
「私は、私で仕事の実力をつければ良い話。だから、私のそばにずっといてくれればいいの。そしたら、私頑張れるから。」
「カホ。」
「私ね、なんとなく感で創ちゃんとなら一緒に楽しくやっていけると思う。」
俺は、泣きたくなるほど嬉しくなって、ギュッとカホを抱きしめる。
「ありがとう。」
カホは首を振って、
「ううううん。私は、すごく嬉しい。」
「なにが?」

「いろいろ考えてくれてたことに。」
「………………。」
「大好き。」
俺は苦笑いする。俺は、幸せものだよな。
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