Why Do You
「君が選べ」

 決して恋人に向ける顔じゃない。

「俺が出ていくか、君が出ていくか」

 彼は私を険しい顔で睨む。ついさっきまで、彼の友人と寝ていた裸のままの私を。

「私が出ていけば良いのね」

 私はご機嫌に笑う。座っていたベッドからおりると、床に毛布が落ちた。息を呑む彼。その頬が僅かに色を変える。

「もう来ないわ」

 何度言ったか分からない台詞。

「どうして君はそうなんだ?」

 苦しそうな声。散らばった服を身につけていく私の手を掴む。

「近付いたのは君なのに、どうして俺を遠ざけようとするんだ?」

 雨の匂いがする。真っ暗な部屋を照らすのは窓から見える切れかけた外灯。彼と会ったのは雨の日だった。

「私を閉じ込めるあなたは嫌いよ」

 彼の冷えた目が好き。

 彼の背中が好き。

 ちっとも合わせてくれない歩幅も。

「俺は君を愛している」

 愚かな人。

「私は……私を嫌いなあなたが好き」

 彼を傷つける為に何かすることは、ちっとも楽しくない。でも、憎しみと嫌悪が交じった目で見られると気持ちがいい。

 私を組敷くあなたが途方のない怒りをぶつける。それを嬉々として受ける。

 私を慈しむあなたは、つまらないもの。

 あなたの手が首に回る。

 遠退く意識。最高な気分。

 愚かな人。

 私の為に涙を流すあなたは嫌い。
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