二度目の初恋
その週の土曜日のことだった。

怜奈ちゃんがわたしを迎えに来てくれた。


「今日は由依のことよろしくね」

「はいっ!どんとお任せ下さい!」

「頼もしいなぁ、怜奈ちゃんは」


高校2年生になっても両親が玄関まで見送りに来るのは少し恥ずかしいし、過保護な気もしたけれど、それを怜奈ちゃんに話すと、なんと怜奈ちゃんのご両親もそうらしい。


「あたしの家のことなんか一番最初に忘れたと思うけど、家は母親が専業主婦だから家の中のことにばっかり目がいくんだよね。そのせいでアタシに対して色々と厳しいし、過保護なんだ。まあ、目をかけてくれないよりは幸せなんだろうけど、自由がないよ」

「怜奈ちゃんのお家って大きいの?」

「ま、一応父が社長やってるからそれなりにはね。ほら、あそこ」


怜奈ちゃんが指差した先には家の2倍の広さの広大な庭と2階建てで煙突のある西洋式のお屋敷があった。

赤いレンガの屋根が横浜のあの観光地を思い出させる。

母と2人暮らしの時に連れていってもらった。

ランドマークタワーから見た夜景がものすごくキレイで、空っぽだったわたしの心の一部を色付けてくれた。

今度行くときは昔の友達と行きたいな。


「すごく素敵なお家だね」


わたしの率直な感想に怜奈ちゃんは優しい微笑みを浮かべた。


「あはは。そりゃどうも。しっかし、ゆいぼんは変わらないなぁ」

「えっ?」

「昔よりはおとなしくなったし、落ち着いたみたいだけど、目がキラキラしてる。明日を見据えて前だけ見て歩いてる素直で健気な少女って感じが滲み出てる。そういうとこ、変わんないよ」

「そうなんだ。なんか、嬉しい」


記憶を失っても変わらないものがあって良かった。

何もかも失ってしまったのかと恐れたりもしたけれど、そんなことなかった。

わたしには今怜奈ちゃんがいて、瞳の輝きも変わらない。

それが本当に嬉しい。


「アタシの家はどうでもいいから早くバスに乗ろ。あの高校に行くバスあと20分で駅前出ちゃうから」

「うん、分かった」


わたしは怜奈ちゃんに手を引かれ、小走りで駅前のバスターミナルまで走った。

まだ4月だというのに日光は容赦なくわたしたちを焼き付けてじんわりと額に汗をかいたのだった。


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