二度目の初恋
事件があったのはクリスマス当日のことだった。

わたしの家ではパーティーをすることになっていたのだけれど、紀依ちゃんは2階の自分の部屋に引きこもったまま姿を見せてくれなかった。


「紀依のことは放っておいて私達だけでやりましょう」

「いや、でも...」

「楽しくやってたら降りてくるかもしれないから、先にやっていよう」


両親がそういうのでわたしはしぶしぶ頷き、パーティーは始まった。

わたしと母が昨日の夜と今日の午後ずっと仕込みをして作りあげただけあって料理はどれも美味しかった。

母は昔から料理上手で、2人で暮らしていた時も美味しい家庭料理を毎日作ってくれていた。

たまにわたしが副菜を作ったりすると、美味しいと喜んで食べてくれたから、わたしは嬉しくてまた作ろうって思えていた。

最近は母が仕事復帰したからちょっと手抜きにはなったけれど、それでも誰かの誕生日や結婚記念日には腕を存分に奮ってくれる。

料理上手の自慢の母だ。

紀依ちゃんにもお母さんの料理食べてもらいたいな...。

紀依ちゃんはいつも食べたくないと言って食事を半分以上残してしまう。

でも、コンビニでパンやおにぎりを買っているのをわたしは度々目撃していた。

思春期の女の子だから、ダイエットとかで食べないようにしているのかと思いきやそうではなかった。

本当に母を嫌っていて憎んでいるんだと分かった。

だからといって憎み続けるのは良くない。

母の味をきちんと味わうことが出来れば紀依ちゃんは変わってくれる。

会話して笑って一緒に食事をすることが出来るようになる。

わたしは立ち上がり、お皿に紀依ちゃんの分の料理を取り分け、お盆に乗せた。


「わたし、紀依ちゃんに夕食届けてくるね」

「ごめんね、由依。よろしくね」

「由依、ありがとな」


妹に健康でいてもらうのも姉の務めだ。

わたしは出汁から取った野菜スープをこぼさないようにゆっくり運んだ。


「紀依ちゃん、夕飯置いておくね。ちゃんと食べてね」


紀依ちゃんから返事はない。

わたしのことは嫌いだって分かってるけど、少しでも返事をしてくれれば嬉しいのに...。

ふぅ。

今日もダメか...。

聖なる夜もいつもと何ら変わらない。

わたしはそう思っていた。


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