侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
◇◇◇
それから数日後。
午後の来客としてデインズデール侯爵家を訪れたのはアメルカ・リデル侯爵夫人だった。
現在コーディアはマナーやインデルク語の教師から授業を受け、エイリッシュの友人らが訪れているときにほんの少しだけ顔を出す以外は自由にさせてもらっている。
公園に行ったり、買い物に行ったりのんびりとした日々だ。
だからエイリッシュからアメリカの訪問を告げられた時は驚いた。
きっとエイリッシュの元には手紙が届いていたのだろう。今日は午後も早い時間からきちんとした室内着に着替えるようメイヤーに促されていた。
「ごきげんいかが、コーディア」
「ごきげんよう、アメリカさま」
応接間ではアメリカが姿勢よく着席していた。今日もそつのないいでたちである。
美しい金髪は頭の後ろできっちりとまとめられており、派手にならないようレエスの留め具が使われている。ドレスも深みのある緑色。
二人は向かい合って座り、使用人がすぐに茶の用意を持ってきた。
「最近お茶会の席でお見掛けしないので気になったのです。何か、嫌なことでありまして?」
ずいぶんと率直な物言いだ。
「ええと……」
嫌なことなら十分にあった。
上流階級の、貴族の娘たちは外国育ちのコーディアが次期侯爵の婚約者にちゃっかり収まったことを許していない。
「ご自分の意見はきちんと口にしませんと伝わりません」
「……」
まるでライルのような発言である。
そういえば一時期ライルの婚約者候補に名が挙がっていたことを思い出した。
彼女は女版ライルというところか。とはいっても現在のライルはだいぶ違っているけれど。
(完璧な貴族の令嬢が結婚すると、完璧な貴族の夫人になるのよね……)
コーディアは目の前のアメリカをさりげなく観察する。
背筋をぴんとのばして姿勢よく着席した姿は品がある。堂々とした物言いに、完璧な所作。お茶の飲み方一つでさえ、気品にあふれている。
ライルだって本当はこういう子がよかったのではないだろうか。
頭にふと浮かんだ考えにコーディアの心は少しだけ沈んで、それから疑問に思う。どうして、いまそんなことを考えたのだろう。
「どうかなさいまして?」
「い、いいえ」
「それで、どうして最近いろいろな場に姿を見せなくなったのです?」
アメリカはそれが気になるらしい。
「確かにアメリカさまが推測された通りです。嫌なことだらけでした。租界育ちだということが皆さんの気に障ったのでしょう。わたしだけならともかく、よく知りもしないのに……友人のことを悪く言われるのは。……嫌なことでした」
ほかにもたくさんあったが一番堪えたのはこのことだった。
「コーディアは優しいのね」
「えっと……」
コーディアは曖昧に頷いた。
「コーディアはエイリッシュ様から正式にライル様のお相手にと認められたのです。周囲が何と言おうとも関係ないのではなくて?」
アメリカはコーディアが周囲からどんなことを言われているか、耳に入っているのだろう。
彼女の声には迷いがなかった。
「そうでしょうか……。わたしはたしかに貴族の血を引いているから、資格があるのかもしれませんが……生まれ育ったのは遠い南国で、アメリカさまのように貴族の家に嫁ぐようしつけられてきたわけでもないんです」
そういう娘が運よく侯爵夫人の座に収まるなんて、面白くないでしょう、とコーディアは続けた。
「でしたら、あなたは努力をしたの?」
「努力?」
「ええそうです。わたくしたちのことを、貴族のしきたりを、わたくしたちの立場を、ライル様から請うことはしなかったのですか?」
「……」
コーディアは黙り込んだ。
エイリッシュはインデルク語やマナーの教師などは手配してくれたが、確かに貴族の矜持というか心得のようなものは教えてくれていないしコーディアから聞こうとはしなかった。
それから数日後。
午後の来客としてデインズデール侯爵家を訪れたのはアメルカ・リデル侯爵夫人だった。
現在コーディアはマナーやインデルク語の教師から授業を受け、エイリッシュの友人らが訪れているときにほんの少しだけ顔を出す以外は自由にさせてもらっている。
公園に行ったり、買い物に行ったりのんびりとした日々だ。
だからエイリッシュからアメリカの訪問を告げられた時は驚いた。
きっとエイリッシュの元には手紙が届いていたのだろう。今日は午後も早い時間からきちんとした室内着に着替えるようメイヤーに促されていた。
「ごきげんいかが、コーディア」
「ごきげんよう、アメリカさま」
応接間ではアメリカが姿勢よく着席していた。今日もそつのないいでたちである。
美しい金髪は頭の後ろできっちりとまとめられており、派手にならないようレエスの留め具が使われている。ドレスも深みのある緑色。
二人は向かい合って座り、使用人がすぐに茶の用意を持ってきた。
「最近お茶会の席でお見掛けしないので気になったのです。何か、嫌なことでありまして?」
ずいぶんと率直な物言いだ。
「ええと……」
嫌なことなら十分にあった。
上流階級の、貴族の娘たちは外国育ちのコーディアが次期侯爵の婚約者にちゃっかり収まったことを許していない。
「ご自分の意見はきちんと口にしませんと伝わりません」
「……」
まるでライルのような発言である。
そういえば一時期ライルの婚約者候補に名が挙がっていたことを思い出した。
彼女は女版ライルというところか。とはいっても現在のライルはだいぶ違っているけれど。
(完璧な貴族の令嬢が結婚すると、完璧な貴族の夫人になるのよね……)
コーディアは目の前のアメリカをさりげなく観察する。
背筋をぴんとのばして姿勢よく着席した姿は品がある。堂々とした物言いに、完璧な所作。お茶の飲み方一つでさえ、気品にあふれている。
ライルだって本当はこういう子がよかったのではないだろうか。
頭にふと浮かんだ考えにコーディアの心は少しだけ沈んで、それから疑問に思う。どうして、いまそんなことを考えたのだろう。
「どうかなさいまして?」
「い、いいえ」
「それで、どうして最近いろいろな場に姿を見せなくなったのです?」
アメリカはそれが気になるらしい。
「確かにアメリカさまが推測された通りです。嫌なことだらけでした。租界育ちだということが皆さんの気に障ったのでしょう。わたしだけならともかく、よく知りもしないのに……友人のことを悪く言われるのは。……嫌なことでした」
ほかにもたくさんあったが一番堪えたのはこのことだった。
「コーディアは優しいのね」
「えっと……」
コーディアは曖昧に頷いた。
「コーディアはエイリッシュ様から正式にライル様のお相手にと認められたのです。周囲が何と言おうとも関係ないのではなくて?」
アメリカはコーディアが周囲からどんなことを言われているか、耳に入っているのだろう。
彼女の声には迷いがなかった。
「そうでしょうか……。わたしはたしかに貴族の血を引いているから、資格があるのかもしれませんが……生まれ育ったのは遠い南国で、アメリカさまのように貴族の家に嫁ぐようしつけられてきたわけでもないんです」
そういう娘が運よく侯爵夫人の座に収まるなんて、面白くないでしょう、とコーディアは続けた。
「でしたら、あなたは努力をしたの?」
「努力?」
「ええそうです。わたくしたちのことを、貴族のしきたりを、わたくしたちの立場を、ライル様から請うことはしなかったのですか?」
「……」
コーディアは黙り込んだ。
エイリッシュはインデルク語やマナーの教師などは手配してくれたが、確かに貴族の矜持というか心得のようなものは教えてくれていないしコーディアから聞こうとはしなかった。