侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
「あなたにもわたくしと同じ貴族の血が流れています。たとえ租界で育ってもそのことに変わりはありません。あなたの御父上、ヘンリー・マックギニス卿はムナガルの租界で未亡人となった女性が祖国へ帰還できるよう活動をなさっています。インデルク人にも彼の世話になった方もいますわ」
初耳だった。
父がそんなことをしていたなんて。
アメリカはほかにもヘンリーがインデルクの修道院などに寄付をしていること、未亡人の自立のための活動を支援していることを教えてくれた。
後で知った話だが、ヘンリーは自身の妻を流行り病で亡くした後、同じく流行り病で夫を亡くし遠い異国で身の振り方に窮している女性との再婚話が持ち上がった。しかし、妻以外の女性と結婚する気はないとそれを断り、代わりに寡婦となった女性の自立や帰国を支援するようになったのだという。
「あなたの御父上はまさしく貴族家の一員ですわ。たとえ爵位を継ぐ立場ではなくても、彼はきちんと自分のするべきことをわかっておいでです。あなたは、どうなのです?」
「わたしは……」
今すぐに言われても分からない。
「外国育ちだからと逃げていても、皆様から認められるわけがありませんわ」
痛いところを突かれた。
アメリカは厳しかった。
「べ、べつに……わたしは戦いたいわけではないです。ライル様と……どうしても結婚したい、というわけでもないですし。親が決めた縁談ですもの」
「それがあなたの逃げるための言葉なのですね」
「なっ……」
アメリカの舌鋒はやまない。それも顔を変えることもなく淡々とした口調で言うものだから迫力も増すというものだ。
「あ、あなたには……関係ないと思います……」
「そう?」
アメリカはここで嫣然と微笑んだ。
ふわりと口元を緩めただけなのに、人を引き付ける魅力がある。コーディアも見とれてしまった。
「わたくし、これでも暇ではないんですのよ。わたくしの夫はメルボルン侯爵を継ぐ立場ですし国政にかかわっていらっしゃるもの。わたくしにも社交というものがありますわ」
アメリカはふわりと微笑みを浮かべたままだ。
コーディアは訝しんだ。
彼女は一体何が言いたのだろう。
「わたくしの見込み違いでしたわね。ライル様もお可哀そうに」
彼女はそれだけ言ってから立ち上がった。
コーディアが呆然としている最中、彼女は優雅にドレスの裾をさばいて「ごきげんよう」と言い残し、応接間から出て行ってしまった。
残されたコーディアはしばらく椅子の上で固まったままだった。
嵐のような訪問だった。
アメリカは一方的に言いたいことだけ言って帰ってしまった。コーディアの反論なんて気に求めずに。当たり前だ。コーディアは逃げているから。自分を守るための言葉しか吐かなかった。
父からある日告げられた結婚相手だから、仕方ないと、わたしが進んで入った世界ではないから、と。
コーディアは言い訳ばかりしていた。アメリカはそんなコーディアに苛立ったのだろう。
どうして彼女はそんな風に感情をあらわにしたのか。
(わたしのこと……見込み違いだって言っていた……。少しは、期待してくれていたってこと?)
あれだけ好き放題言われたのに、コーディアはアメリカに失望されて悔しいと感じている。ここまで一方的に言われっぱなしで、彼女はさっさと帰ってしまって。
コーディアはライルのことを思い浮かべた。
二度目のケイヴォン散策でだいぶ印象の変わった婚約者。彼のこと、まだ怖いと思っている? ううん。そんなことない。話せば普通の人だと思った。彼もきっとコーディアをわかろうと努力をしてくれている。お互いにまったく違う人生を歩んできた。インデルクはコーディアにとって未知の世界だ。
ふと頭の中にライルの声がよみがえる。意識して柔らかな声を出そうとしてくれているコーディアの婚約者。あてがわれただけの婚約者だなんて、そんなことを言ってしまった。
(わたし……)
コーディアは胸の前でぎゅっと手を握りしめた。
初耳だった。
父がそんなことをしていたなんて。
アメリカはほかにもヘンリーがインデルクの修道院などに寄付をしていること、未亡人の自立のための活動を支援していることを教えてくれた。
後で知った話だが、ヘンリーは自身の妻を流行り病で亡くした後、同じく流行り病で夫を亡くし遠い異国で身の振り方に窮している女性との再婚話が持ち上がった。しかし、妻以外の女性と結婚する気はないとそれを断り、代わりに寡婦となった女性の自立や帰国を支援するようになったのだという。
「あなたの御父上はまさしく貴族家の一員ですわ。たとえ爵位を継ぐ立場ではなくても、彼はきちんと自分のするべきことをわかっておいでです。あなたは、どうなのです?」
「わたしは……」
今すぐに言われても分からない。
「外国育ちだからと逃げていても、皆様から認められるわけがありませんわ」
痛いところを突かれた。
アメリカは厳しかった。
「べ、べつに……わたしは戦いたいわけではないです。ライル様と……どうしても結婚したい、というわけでもないですし。親が決めた縁談ですもの」
「それがあなたの逃げるための言葉なのですね」
「なっ……」
アメリカの舌鋒はやまない。それも顔を変えることもなく淡々とした口調で言うものだから迫力も増すというものだ。
「あ、あなたには……関係ないと思います……」
「そう?」
アメリカはここで嫣然と微笑んだ。
ふわりと口元を緩めただけなのに、人を引き付ける魅力がある。コーディアも見とれてしまった。
「わたくし、これでも暇ではないんですのよ。わたくしの夫はメルボルン侯爵を継ぐ立場ですし国政にかかわっていらっしゃるもの。わたくしにも社交というものがありますわ」
アメリカはふわりと微笑みを浮かべたままだ。
コーディアは訝しんだ。
彼女は一体何が言いたのだろう。
「わたくしの見込み違いでしたわね。ライル様もお可哀そうに」
彼女はそれだけ言ってから立ち上がった。
コーディアが呆然としている最中、彼女は優雅にドレスの裾をさばいて「ごきげんよう」と言い残し、応接間から出て行ってしまった。
残されたコーディアはしばらく椅子の上で固まったままだった。
嵐のような訪問だった。
アメリカは一方的に言いたいことだけ言って帰ってしまった。コーディアの反論なんて気に求めずに。当たり前だ。コーディアは逃げているから。自分を守るための言葉しか吐かなかった。
父からある日告げられた結婚相手だから、仕方ないと、わたしが進んで入った世界ではないから、と。
コーディアは言い訳ばかりしていた。アメリカはそんなコーディアに苛立ったのだろう。
どうして彼女はそんな風に感情をあらわにしたのか。
(わたしのこと……見込み違いだって言っていた……。少しは、期待してくれていたってこと?)
あれだけ好き放題言われたのに、コーディアはアメリカに失望されて悔しいと感じている。ここまで一方的に言われっぱなしで、彼女はさっさと帰ってしまって。
コーディアはライルのことを思い浮かべた。
二度目のケイヴォン散策でだいぶ印象の変わった婚約者。彼のこと、まだ怖いと思っている? ううん。そんなことない。話せば普通の人だと思った。彼もきっとコーディアをわかろうと努力をしてくれている。お互いにまったく違う人生を歩んできた。インデルクはコーディアにとって未知の世界だ。
ふと頭の中にライルの声がよみがえる。意識して柔らかな声を出そうとしてくれているコーディアの婚約者。あてがわれただけの婚約者だなんて、そんなことを言ってしまった。
(わたし……)
コーディアは胸の前でぎゅっと手を握りしめた。