侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
◇◇◇
その日、コーディアは屋敷の二階、表玄関を見渡せる部屋の窓辺から外を眺めていた。
彼はいつ帰ってくるのだろう。
(わたしは、結局全部から逃げてばかり)
ライルの婚約者だと胸を張る自信もないし、自分から表に出て行くことを拒絶している。
ライルとエイリッシュが優しいから甘えているだけ。
新しい世界に入っていくには、自分から道を切り開いていかないといけないのに。
ずっと小さくて居心地の良い巣の中で庇護されてきた。寄宿舎の中はとても温かく、コーディアはただ守られているだけだった。
ぬくぬくと与えられる恩恵だけを受け取っていた。
けれど、今は違う。
確かに決められた縁談だったけれど、コーディアはライルのことを知っていった。
彼の住む世界がどういうものか垣間見たし、自分だってインデルクで育っていたら、この世界の中で過ごしてきたのだろう。
ぼんやりと窓の外を眺めていると、馬車が一台屋敷の敷地内へ侵入してきた。
帰ってきたのは誰だろう。
今日はコーディア以外みんな出かけている。
馬車は馬車寄せに停まり、中から人が下りてきた。
コーディアにはすぐにわかった。
背の高い、洗練された紳士。
コーディアの婚約者。
(どうしても結婚したいわけでもない、なんて言ってごめんなさい……)
ライルに対して申し訳なく思った。
正直なところ、彼でないと嫌かと問われれば、わからないと答える。だって、まだライルとは打ち解け始めたばかりだから。
けれど、勝手に酷いことを言って罪悪感を覚えるくらいにライルのことが気になり始めている。
彼の笑った顔を見ていると胸が騒ぎ始めるし、他愛もない話をするのが好き。
きっとライルはコーディアに対して言いたいことだってあるはずだ。自分はまだ淑女には程遠いし、インデルクの女の子たちの常識だって全部把握できていない。
それに、ライルの仕事のことや役割や義務について知ろうともしなかった。
父のことも同じ。コーディアは完全に守られる側だった。アメリカはちゃんと知るべきことは知ろうとしているのに。
コーディアは恥ずかしくなった。
今まで何も行動を起こそうとしなかった。
きっとライルもエイリッシュも待っていたに違いないのに。
わたしがまずしないといけないこと。
コーディアは一人決意を固めた。
◇◇◇
夕食が終わり、一度それぞれの部屋へと戻った後。コーディアは控えめにライルの書斎の扉を叩いた。
「誰だ」
扉の中から誰何の声が聞こえてきた。
「わたしです。コーディアです」
コーディアが答えると、少しした後ライル自らが扉を開いた。
「すまない。てっきりエイブか誰かだと思った。寒いだろう、ここは。居間に行こう」
「いえ。わたしのほうこそ夜分遅くに申し訳ございません」
「いや、いい。そういうほど遅くもない。きみはもう寝支度をしているものだと思っていたが。寒くないか?」
ライルはコーディアが肩から羽織っている厚い羽織りを目にとめて、口元を緩めた。上質な羊毛で織られた大きな肩掛けは彼からの贈り物だった。
「これがあるので暖かいのです」
「そうか」
ライルに促されてコーディアは居間へと足を運んだ。エイリッシュはすでに自身の私室へと引き上げた後だった。
その日、コーディアは屋敷の二階、表玄関を見渡せる部屋の窓辺から外を眺めていた。
彼はいつ帰ってくるのだろう。
(わたしは、結局全部から逃げてばかり)
ライルの婚約者だと胸を張る自信もないし、自分から表に出て行くことを拒絶している。
ライルとエイリッシュが優しいから甘えているだけ。
新しい世界に入っていくには、自分から道を切り開いていかないといけないのに。
ずっと小さくて居心地の良い巣の中で庇護されてきた。寄宿舎の中はとても温かく、コーディアはただ守られているだけだった。
ぬくぬくと与えられる恩恵だけを受け取っていた。
けれど、今は違う。
確かに決められた縁談だったけれど、コーディアはライルのことを知っていった。
彼の住む世界がどういうものか垣間見たし、自分だってインデルクで育っていたら、この世界の中で過ごしてきたのだろう。
ぼんやりと窓の外を眺めていると、馬車が一台屋敷の敷地内へ侵入してきた。
帰ってきたのは誰だろう。
今日はコーディア以外みんな出かけている。
馬車は馬車寄せに停まり、中から人が下りてきた。
コーディアにはすぐにわかった。
背の高い、洗練された紳士。
コーディアの婚約者。
(どうしても結婚したいわけでもない、なんて言ってごめんなさい……)
ライルに対して申し訳なく思った。
正直なところ、彼でないと嫌かと問われれば、わからないと答える。だって、まだライルとは打ち解け始めたばかりだから。
けれど、勝手に酷いことを言って罪悪感を覚えるくらいにライルのことが気になり始めている。
彼の笑った顔を見ていると胸が騒ぎ始めるし、他愛もない話をするのが好き。
きっとライルはコーディアに対して言いたいことだってあるはずだ。自分はまだ淑女には程遠いし、インデルクの女の子たちの常識だって全部把握できていない。
それに、ライルの仕事のことや役割や義務について知ろうともしなかった。
父のことも同じ。コーディアは完全に守られる側だった。アメリカはちゃんと知るべきことは知ろうとしているのに。
コーディアは恥ずかしくなった。
今まで何も行動を起こそうとしなかった。
きっとライルもエイリッシュも待っていたに違いないのに。
わたしがまずしないといけないこと。
コーディアは一人決意を固めた。
◇◇◇
夕食が終わり、一度それぞれの部屋へと戻った後。コーディアは控えめにライルの書斎の扉を叩いた。
「誰だ」
扉の中から誰何の声が聞こえてきた。
「わたしです。コーディアです」
コーディアが答えると、少しした後ライル自らが扉を開いた。
「すまない。てっきりエイブか誰かだと思った。寒いだろう、ここは。居間に行こう」
「いえ。わたしのほうこそ夜分遅くに申し訳ございません」
「いや、いい。そういうほど遅くもない。きみはもう寝支度をしているものだと思っていたが。寒くないか?」
ライルはコーディアが肩から羽織っている厚い羽織りを目にとめて、口元を緩めた。上質な羊毛で織られた大きな肩掛けは彼からの贈り物だった。
「これがあるので暖かいのです」
「そうか」
ライルに促されてコーディアは居間へと足を運んだ。エイリッシュはすでに自身の私室へと引き上げた後だった。