侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
「アメリカさま」

 アメリカは平素通り隙のない顔つきでコーディアに向き合う。
 コーディアはそっと礼をする。

「あなたのこだわりがちゃんと伝わってくるわ」
「あ、ありがとうございます」

 率直な感想にコーディアの顔が赤くなる。
 たとえお世辞だとしても嬉しい。コーディアは今日のために頑張ったのだ。今だって戦っている最中だ。本当は怖くてたまらない。でも、ムナガルの生活を知っている自分が声を上げないと、あちらのことをわかってもらえないと思った。自分の友人のこと、租界の生活のこと。全部、ちゃんと知ってほしかった。

「あなたの伝えたいことが伝わってくるお茶会ね」
「はい。わたしはジュナーガルについてもっとたくさん知ってもらいたかったのです」
 アメリカは室内を失礼のない程度に見渡した。
「あなたは、あなたの育った場所に誇りを持っているのね」

「はい。わたし、生まれ育ったジュナーガルが大好きです。もちろん、不便なところだってありました。こちらに越してきて、たくさん物で溢れているのを目の当たりにして感動することもありました。けれど、わたしは、あの国の青い空とか新鮮な果物とか、濃い味のチャータが大好きなんです。暖かな潮風も」

「今日のコーディアはとてもいい顔をしているわ。本当のことよ。これまでよりも明るくなったわね」
「ありがとうございます。わたし、アメリカさまに言われて気づきました。これまでいろんなことを言い訳にしてきたって。……けれど、わたし……これからはちゃんと目の前のことに向き合おうって思います」

 コーディアはアメリカの目を見てはっきりと伝えた。これが、この間問われたときの答え。
「そう」
 アメリカには伝わったのだろう。彼女もまたコーディアを見つめ返して静かに頷いた。
「わたくしもお手伝いできると思うわ。よければ今度遊びに来て頂戴。あなたと一度フランデール語でお話をしてみたいと思っていたのよ」
「は、はい! ぜひ」
 コーディアは胸がいっぱいになった。

「それと、わたくしに敬語は必要ないわ。アメリカと呼んで頂戴」
「え、ええ。……アメリカ」

 少女二人は視線を交わし合う。以前よりもどこか近づいたように思える。アメリカのような素敵な淑女にはまだほど遠いけれど、いつか彼女のように凛とした女性になりたい。

「引き留めてごめんなさい。今日はありがとう、とそれを伝えに来たのよ、コーディア。また今度」
 アメリカはそれだけ付け加えてコーディアから離れていく。
「こちらこそ。楽しんでいってね。……また手紙書くわ」

 コーディアも慌てて彼女に挨拶をした。アメリカが小さく首を縦に振ったのを見届けてから、心臓がばくばくと動き始める。

 またって、また今度って。
 次はもっとゆっくり話ができるだろうか。ひさしぶりの高揚感がとても心地よい。

「コーディア、少しお話を聞かせていただいてもいいかしら」
 すぐに別の婦人たちから声がかかってコーディアは「はい」と振り返る。

 ちらりとアメリカを見やると彼女はもう別の令嬢たちの輪に迎えられていた。
 コーディアも慌てて呼ばれた一団の会話に加わった。
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