愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「あまりにリアルな夢だったから冬子さんにも話したんですけど、『そんな子と遊んでたことなんてないわよ』って笑われちゃって」



ただでさえ私は、両親を亡くした日から一年近くの記憶が曖昧で、きちんと記憶があるのは7歳頃からだ。

夢と現実の区別がつかなくてもおかしくない。

それでも時折、あの男の子のことを思い出した。



「楽しかったはずなのに、彼とのことがちゃんと記憶にないのが悔しくて……もっと彼と会話が出来ていたら、自分が彼の国の言葉を話せていたら、もっと深く記憶に残せていたのかなって後悔した」



もっと彼のことを知れていたら、もっと自分のことを話せていたら。

そんな後悔が、『なら今度会ったときには話せるようになっていたい』といつしか希望に変わっていった。



「だから、いつかまた夢の中で彼にまた会えた時には笑顔で言葉を交わしたい。そんな自分になるために、英語を学ぼうと思ったんです」



夢の中で出会った彼がきっかけをくれたんだ。



「なんて、夢の中で会った人のことなんて恥ずかしくて誰にも言えなかったんですけど」



その存在を思い浮かべながらつい笑う私に、それまで黙って聞いていた清貴さんが口をひらく。



「……けどその彼との出会いがなければ、教師になることも、傷つくこともなかっただろ」



彼との出会いがなければ……。

たしかにそうかもしれない。

彼の夢を見ず、他の道を選んでいたらきっとその先で出会う人も変わっていた。

誰かの行いに傷つくことも、絶望することもなかったかもしれない。



……だけど。


  
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