愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「英語を話せるようになりたいって思ったのは、子供の頃に見た夢がきっかけなんです」
「夢……?」
「夢の中で私は外国人の男の子と出会って、一緒にこの街を歩いて日が暮れるまで遊んでた」
それは、幼い時にみた夢。
夢の中で私はたまたま冬子さんたちの元へ遊びに来ていて、この街でその男の子と出会った。
私より少し年上の子だったと思う。
顔は覚えていないけれど、明るい色の目と茶髪が印象的だった。
不安げな顔で杉田屋の前に座っていた彼をみつけ、迷子かと思い声をかけた。
けれどなにも答えてはもらえず、日本語がわからないのだろうと察した。
『おうちのひと、いないの?そっかぁ、じゃあはながいっしょにさがしてあげる!』
私はそう言って、半ば強引に彼の手を引いて温泉街を歩きまわった。
「彼と言葉は交わせなかったけど、一日中街を歩いて……最後にはロープウェイで山に登って展望台から景色を見て、楽しかったなぁ」
話しながら私は、部屋の窓から見える少し離れた位置にある山を指さす。
そこは温泉街からほど近い乗り場から、ロープウェイを使ってのぼることができる。
清貴さんは私の隣に立ち、指の先を目で追って同じ方向を見た。