愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「はい、名護です」
『お世話になっております。【ジュエリーショップ ステラ】でございます。ご注文いただいておりましたお品物のご用意ができまして――……』
その電話の相手に、俺は相づちを打ち電話を終える。
……そうか、用意できたか。
春生にきちんと話をするのに、いいきっかけになるかもしれない。
そう思い覚悟を決めると、俺は荷物を手に部屋を出た。
まだ言えていないこと、胸の中の気持ち。全部話してしまえばいいと分かっている。
けれど、彼女が忘れていることを今更伝えることが怖い。
もうその心には欠片しか残っていなくて、俺の言葉も、約束も忘れられてしまったんだと実感するのが怖いんだ。
それに、何年も抱えた気持ちだから、拒まれたり受け止めてもらえなかったらと考えるだけでもつらい。
……強くなるって、あの日誓ったはずなのに。
好きだと思うこの気持ちの前では、こんなにも臆病だ。