愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「それはまぁ……据え膳食わぬは、ってやつだねぇ。俺なら相手が友達の奥さんでも絶対食べちゃうのに」
「周さん!?」
「うそうそ」
あはは、と笑いとばす彼の声に、重くなりかけていた車内の空気が少し軽く感じられた。
「でも名護はああいうヤツだから。半端な気持ちで手出ししたりしないよね」
「でも……夫婦なのに」
「夫婦だけどさ。それって心の部分でつながってなきゃ意味ないでしょ」
心の部分で……?
それは、周さんからの言葉にしては少し意外だった。
「体でつながって心つなぐのもあり。だけど本当は、心がつながったから体までつながりたいと思うんじゃないのかな」
「心が……」
「焦る気持ちもわかるけどね。信じるべきは茉莉乃さんって人よりも大切な人の言葉なんじゃない?」
周さんのその言葉は不思議なほど自分の心にすとんと落ちた。
以前清貴さんは、私と結婚してよかったと言ってくれていた。
私の本音を聞いたうえで、全て受け入れ抱きしめてくれた。
その言葉を忘れて、茉莉乃さんの言葉に不安を煽られて……。
『夫婦』と繰り返しておきながら、心でつながることが出来ていなかったのは私のほうかもしれない。
そもそも私、清貴さんからはなにも聞けていない。
初恋の人が本当に茉莉乃さんなのか、彼が今彼女をどう思っているのかも。
彼の気持ちと向き合って、自分の不安もきちんと伝えていれば違っていたのかもしれない。
怖くても勇気を出すべきだった。
ふと気付くと、車は高速道路を走っている。
「あれ……どこに行くんですか?」
「名護の初恋の人に会いに。どう?知りたくない?」
「えっ?初恋の人って……茉莉乃さんじゃないんですか?ていうか、周さん知ってるんですか?」
驚きながらたずねるけれど、周さんは笑うだけでなにも教えてはくれずに車を走らせ続ける。