愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「あれ、なんで……すみません」
「ううん、いいよ。名護となにかあった?」
「なにかというか、私が勝手にいろいろ考えてしまって……」
声を発するほど、涙はポロポロとこぼれてしまう。
止まらない涙を手の甲で拭おうとする私に、周さんはそっとハンカチを差し出してくれた。
「ね、気晴らしにドライブ行かない?」
「え?」
「景色でも見て気分転換しながら、なにがあったか聞かせてよ。俺相手でも話せばすっきりするかもしれないし」
周さんのその提案に一瞬迷う。
けれどたしかに、このまま家のなかにひとり戻ってもあれこれ考えて泣いてしまうだけだ。
気分転換に、いいかも。
そう思い頷いて、ハンカチを受け取った。
それから私は、周さんと一度宝井神社の裏にある周さんの自宅へ向かい、彼の愛車だという白色のSUV車に乗った。
そしてシートベルトを装着したところで、車は走り出す。
行き先もわからぬまま、助手席で揺られながら窓の外の景色をみつめた。
「で?名護となにかあった?」
「清貴さんと、というか……」
前を見たまま問いかける周さんに、私は先日のことをひと通り話した。
清貴さんに茉莉乃さんという存在がいたこと。
茉莉乃さんは清貴さんを好きで、彼女から核心を突いた発言をされてなにも言えなかったこと。
焦りから清貴さんに関係を迫り断られてしまったこと。
周さんは話が終わるまで、「うん、うん」と丁寧に相づちを打ってくれていた。