愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「さっき副社長と会ったんだけどさ、今日もかっこよかった〜!『お疲れ』って言われただけなんだけど、超ときめく!」



聞こえてきた声から、彼女たちの話題が名護さんのことなのだと察した。



「副社長、無愛想なのに私たち仲居にもちゃんと声かけてくれるところがいいよね」

「クールなイケメンハーフで次期社長!非の打ち所がないよね!あー、あんな素敵な人と結婚したい!」



まるでアイドルの話をするかのように、キャーキャーとその場は盛り上がる。



名護さん、やっぱりモテるんだなぁ。

確かに、毎日見ていても綺麗な顔してるなぁと思っちゃうもんね。

うんうんと納得してしまう。



「……まぁ、そんな副社長もいつの間にか既婚者になってたんだけどね……」



ところが、ひとりの仲居のそのひと言に、場の空気は一気に盛り上がりをなくす。

『既婚者』の響きに心臓がギクリと音を立て、今彼女たちの前に姿を現してはいけないと察した私は、コソコソと柱の影に身を隠した。



「結婚相手、裏の副社長宅にいるんでしょ?どんな人か知ってる?」

「私は見たことないし、増田さんたちも教えてくれないけど……お見合いに来たときに見た人からは『地味寄りの普通の女』って聞いた」

「あの副社長の結婚相手がそんな女なんて!認められなーい!」



ま、まずい……。

今ここで私が出ようものなら、どうなるかわからない。



それにしても『地味寄りの普通の女』って……否定できないのが悲しい。

顔は派手なほうではないし、大人っぽさや色気もない。どちらかというと幼いし背も低い。体は痩せて貧相だし……うう、悲しくなってきた。


  
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