愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「政略結婚って聞いたけどさ、どこかの旅館の娘ってだけで副社長と結婚できるなんてうらやましいよねぇ」
「ま、どうせすぐ離婚しちゃうでしょ。お互いのことよく知りもしない結婚なんて続かないって」
続かない……。
そう、だよね。そう思われても仕方のないことだ。
わかっているけれど、彼女たちが笑いながら言ったその言葉たちがサクッと胸に刺さった。
このままいても出づらいし、今日は出直そうかな。
そう思い、きた方向へ体を向け直す。
ところが振り向いた先にはこちらへ向かって歩いてくる増田さんの姿があった。
「あら奥様!こんにちは!」
「ま、増田さん……!」
『奥様』といつも通り明るく大きな声で言った増田さんに、まずい、と仲居さんたちのほうを振り向く。
案の定私に気づきこちらを見る彼女たちは、私 こちらを見て顔を青くさせ絶句していた。
「ま……増田さん、奥様って、そちらの方……」
「そうよ、副社長の奥様!ってどうしたの、みんな顔真っ青じゃない」
青ざめ無言になる彼女たちと、気まずさから苦笑いになる私。
そんな私たちの表情と重い空気から、増田さんはなにがあったかを察した様子で話題を切り替える。