愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「前から思ってたんですけど、名護さんって日本語ペラペラですよね」
「日本生まれ日本育ちだからな。母親は日本語があまり上手くはないが、父親同様あまり家にいなかったから言葉がうつることもなかったな」
家にあまりいなかった、ってことは、お母さんもお仕事してるのかな。
「お母さんも働かれてるんですか?あ、もしかして経営を?」
「あぁ、父親の秘書として仕事を手伝ってる。だからふたりとも忙しくて、ハウスキーパーはいたけど家にはいつも俺ひとりだったな」
家に、いつもひとり……そうだったんだ。
その寂しさを思うと、この胸も切なくなる。
「……だから見送られたり出迎えられたりすることに慣れていなくてな。いつも、自然に返事ができなくて悪い」
ぼそ、と呟く彼はどこか気恥ずかしそうな表情で目を背ける。
それって……いつもの『あぁ』とか、短い返事のこと?
名護さんも、気にしていたんだ。
悪い、だなんて……なにも悪いことなんてないのに。
だけど、思っている以上に彼は私のことを気に留めてくれている。
会話を覚えてくれていたり、自分の返事を気にしたりしてくれている。
そう思うと、思うより心の距離は近いのかもしれない。
顔を背けたままの名護さんの服の袖をくいっと引っ張ると、彼は不思議そうにこちらを見た。