愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
それから、夕食を終えたあとのこと。
「春生、ちょっと」
「はい?」
食器を片付けようとシンクに置いたところで、彼に呼ばれた。
なんだろうとついていくと、名護さんはそのまま二階へあがり、奥の部屋へ私を導く。
「名護さん?ここって……」
この部屋は、名護さんが書斎と言っていた部屋だ。
家の掃除をする際も勝手に入っていいのかわからなくて、この部屋と彼の寝室は入れずにいたので中を見たことはない。
私の問いに答える前に、彼はドアを開け電気をつけた。
白い蛍光灯のあかりに照らされた室内には、大きな本棚がいくつも並び、沢山の本が敷き詰められている。
「わ、すごい本!これ名護さんのですか?」
「いや、母親が集めていた本だ。置き場所がないからとここに置いていった」
名護さんのお母さんの本……。
一冊手に取り軽くめくると、その本は全文英語で綴られている。
ほかの本も全て英語の背表紙が並んでいることから、洋書であると気付いた。
「英語教師をしていたと言ってただろ。それなら読めるかと思ってな。よかったら暇つぶしにでも読んでくれ」
「いいんですか?」
「あぁ。母親には一応伝えたが、ぜひ読んでほしいと喜んでたぞ」
名護さんのお母さん、快諾してくれたんだ。
……それもうれしいけど、それ以上にうれしく思うのは。
「私が英語教師だったこと、よく覚えてましたね」
「一番最初に春生が言ったことだろ。それくらい覚えてる」
彼は普通の顔で言うけれど、そういう些細なことを覚えてくれているのがうれしい。
口もとが緩むのを隠しきれず笑いながら、ずらりと並ぶ本を見回す。
「それにしてもすごく沢山の本ですね。ほとんど洋書、ってことはお母さんが外国の方なんですか?」
「あぁ。母親がイギリス人、父親が日本人だ」
そうだったんだ。ハーフだろうとわかってはいてもなかなか聞く機会がないままだった。
名護さんのご両親……きっと綺麗なお顔なんだろうなぁ。