君との想い出が風に乗って消えても(長編・旧)



 加恋ちゃんと一緒にあの美しい場所で一緒に過ごしたい。


 ……ただ……。


 加恋ちゃんと一緒にあの場所に行くには加恋ちゃんのことを誘わなくてはいけない。


 どうやって加恋ちゃんのことを誘えばいいのか、僕はその言葉が思いつかなかった。


 たぶん普通に誘えばいいのだと思うのだけど……。


 でも、やっぱり加恋ちゃんのことを誘う勇気がない。


 そして僕はこう思った。


 加恋ちゃんのことを誘わなくても加恋ちゃんと一緒にあの場所に行く方法はないのかな……と。


 でも……。


 でもやっぱり加恋ちゃんのことを誘わなければ、加恋ちゃんと一緒にあの場所に行くことはできない……のだろう。


 僕は思った。


 今、僕の横には加恋ちゃんがいる。


 今だ。


 今が加恋ちゃんのことを誘うチャンスだと。


 僕は何度も加恋ちゃんに『あの秘密の場所に行こう』と言おうとした。


 だけど、なかなかその一言が出せない。


 サッと言えば済むはずなのに、僕は喉になにかが詰まったかのようにその一言が言えない。


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