忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
自動販売機でコーヒーを二つ買い、後藤さんに渡す。

「ありがとう」
控えめにお礼を言いはにかむように笑う後藤さんが可愛すぎる。「好きです」と言ってくれた言葉に期待も膨らみ、何とも言えない胸のざわつきに戸惑いながら

「座る?」

自動販売機横のベンチに誘う。


まだ7時過ぎの公園には人気が無い。
わずかに蝉の声が聞こえる。

「さっきは…ごめんなさい。あんなことあのタイミングで言うつもり無くって…」

先に口を開いたのは後藤さんだった。

「うん…うれしゅうて…びっくりした。」
後藤さんの表情を確かめたくなってそっと顔を覗き込む。
困ったようにも見えるその表情に不安がよぎる。

「…永井くんが昨日言ってくれたこと、ホントに嬉しくて…ありがとう。」

「うん。」

「うちも…永井くんの事が…」
目をギュッとつむり震えながら言う後藤さんが可愛い過ぎてその言葉を最後まで聞かずに思わず抱きしめてしまった。

コーヒーの缶が地面に音を立てて転がったがそんなことにかまっていられなかった。

抱きしめた胸の中でまだ小さく震える。

「…ずっと好きでした。」

(…え?!)
思いがけない言葉に抱きしめていた後藤さんを離して向かい合う。

「…ずっと?」

「うん。ずっと。」

「いつから?」

「…高校1年の入学式の時」

「入学式…俺、後藤さんの足踏んづけた!」

「うん。あの時、永井くんに…その…ひっ一目惚れって言うんかな…目を奪われてしもうて…」

尋問のような問いかけに一生懸命答えてくれる後藤さんが愛しすぎる。
しかも夢のような言葉ばかりが飛び出す。

達也が言っていた後藤さんの『ホントに好きな人』って…もしかして…俺!?

そう思うともう自分が押さえられず後藤さんへの気持ちが溢れだしてしまった。

気がついたときには後藤さんをきつく抱きしめながらキスをしていた。

もう一瞬も離れていたくない。
もう、離さない。

そんな気持ちを込めて…。
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