忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
初めての文化祭 ~高校時代~
「1組として文化祭の出店はどーしますか?」
学級委員長の長野さんが少しイライラしながら大声を張り上げる。今日のロングホームルームは文化祭について話し合いをしているのだが、みんな高校生になって初めての文化祭ということもあって、それぞれの夢や妄想が広がってしまい思い思いにしゃべりまくっていて1つも意見がまとまらないからだ。

「はい!」

亜紀の元気でよく通る声が教室に響き、それまで口々にしゃべっていたクラスメイト達の視線が真っ直ぐ上に手を挙げて立ち上がった亜紀の方に向けられる。

「うち、何か可愛い食べ物作って売りたい!夏祭りに売ってたりする…たとえば…りんご飴とか…いちご飴とか!!」

クラス中が再びざわつき始め、「うわぁ~」 とか 「うんうん!」とか「それええがん!」とか口々に聞こえるその声のほとんどが亜紀の意見に賛成しているものだった。

こういうとこ、さすがだと思う。私には…できない。

「ハイハイハイハイ!」学級委員長がパンパンと手を叩きながらその場をおさめ、「それでは多数決いきますね」と黒板の前に立って言う。

「それでは、りんご飴がいいですか?いちご飴がいいですか?」

「はい!」
再び亜紀が手を挙げる。
「やっぱ作ってみてから決めん?うも~作れんかもしれんし」


結局、それもそうだなと言うことで、明日調理室を借りて試食を作ることにした。


次の日

私はみんなの注目の的となってしまった。亜紀が「みぃはすっごい料理上手なんよ!特にお菓子作りが!!」
なんてみんなの前で言ったばかりに…

実際クッキング部だし、毎日のお弁当も、自分で作ってるし…趣味はお菓子作りなのだけれど。


鍋で砂糖とお水を混ぜたものをフツフツとさせて飴を作り、頃合いを見て串に刺したいちごや姫りんごをくぐらせて乾かす…。
ただそれだけの工程なのだが、この飴の加減が難しい。
今日は何とか上手く出来上がり、ホッとした。

「うわぁ~すごい!!後藤さんさすがじゃわ!」
「ほんまじゃ!可愛い~」

クラスメイトが次々とほめてくれた。少し照れ臭いけど、誉めてもらえてとっても嬉しかった。
「じゃろ~」亜紀が自分で作ったかのように得意気な顔で両手を腰にあてて言う。

「なに得意気に言よん。作ったんはみぃじゃろ!? アッハッハッハ」

大きな笑い声が廊下から聞こえる。

「唯!」
廊下の窓から覗いていたのは親友の唯だった。びっくりしながらも唯の姿が見えて何だかホッとする。

「何かええ匂いがしょうると思~たら…何?りんご飴?りんご飴だけじゃのーていちごでも作っとん?」
唯の後ろからひょっこり顔を覗かせたのは永井君だった。

ドキン!!心臓がひっくり返り顔が赤くなるのを感じた。

「おっ!唯~それから永井までどしたん?」亜紀が窓辺に駆け寄り二人に声をかける。

「偵察よ~偵察。なぁ光!」
クスクス笑いながら唯が言う。(…光…呼び捨て?!しかも下の名前…)唯が永井君のことを呼び捨てで呼んでいたことにショックを受ける。

「本岡?ちょっとちょっと」永井君が亜紀に手招きして声をかける。

「あ?何?見たいん?」
亜紀はりんご飴といちご飴が並んだ四角いバットを持って永井君の所に見せに行った。
他のクラスメイトはそろって試食を始め「美味しい!お祭りで売っとるやっと同じ!」「さすが後藤さん!めっちゃ美味しいわぁ」そう口々にほめてくれた。その声に反応した亜紀は振り向いて「じゃろ~!あったりまえよ!」と自分の事のように自慢する。

そのすきに「もーらい」と素早く永井君がいちご飴を手に取った。

「あっ!ちょっとちょっと!」あわてて亜紀が取り返そうとするが背の高い永井君がいちご飴を持った手を高く上げてしまったらもう届かない。

永井君は一歩さがっていちご飴をパクっと食べた。「んっ、うまい!これ後藤さんが作ったんじゃろ?」思いがけず永井君が食べてくれて、しかもほめてくれて…私はさっきのショックはどこえやら、頬を赤らめてうつむき、コクコクとうなずくことしかできなかった。胸が熱くなる。

「ほんまうまいで~唯も食べてみ」そう言って唯に残り1つが刺さっているいちご飴の串を差し出す。(えっ?…ゆっ、唯?!)唯のことを呼び捨てで呼ぶ永井君の声に思わず顔を上げた私…
差し出された串を受け取らずそのままパクっといちご飴を頬張る唯の姿が目に入ってしまった。

「んっ、ほんま、美味しい!みぃ、さすがじゃわ」

唯が私の方に向かって声をかけてくれたけど、あまりのショックにまばたきも忘れてしまって…。


「なぁ、ちょっと、あの二人やっぱり?」「まだ付き合ってはないって話しじゃけど…ホントはもぉ…」ひそひそと永井君と唯のことをうわさする声が遠くで鳴り響いていた。


私の恋心を誰にも話せずにいた高校一年の秋だった。
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