忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

# 光side

あの3人と知り合いなのはずるい、どういう知り合いなのか など散々いじられた。「あぁ…」とか「うん…」とか曖昧な返事でごまかしていたが「あの背の高い人が光さんの彼女っすか?」という質問をしてくるやつがいて(まだ噂を信じとる奴もおるんじゃな)と思った。一年生で同じクラスだった時から唯と噂されていることはなんとなく分かっていたが、事実無根なのだからと気にしていなかった。

「いや、俺彼女おらんから」その質問にだけははっきりと答えた。

「え~じゃあ誰ねらいなんですか?」「俺なら、あの背が低くて可愛い子がええな」「俺はあの背の高い超絶美人!」「いや、俺は切れ長二重のお姉様!」
騒ぎ立てる後輩達にちょっと呆れ「勝手に言うとけ!」と言いながら大太鼓横の持ち場に帰った。

(俺なら、小さくて優しくて可愛いあの子がええな…。)心の中で本音をつぶやく。誰にも言えない本音だった。

ふと後藤さんの方を見ると、さっきの騒ぎは忘れたように3人で何かしゃべりながら笑っていた。

最近後藤さんの笑顔が明るくなったような気がする。いつも恥ずかしそうにうつむいて髪の毛で表情を隠していた頃と違い、最近はハーフアップにしたり、耳に髪の毛をかけたりしてその表情が良く見えるようになった。達也と一緒にいることも多いためか、野球部の奴らの中に`可愛い`だとか`女神様`だとか言って密かに気にする者が出てきて内心穏やかでは無い。

でも、本当に穏やかでは無いのは`達也さんの彼女`と言う噂が出回っていること。

(本当はもう二人は付き合っているのかも知れない。)そう思い、最近の後藤さんの変化に不安を感じていた。

達也が言ったらしい『彼女じゃ無いで。ただ俺がめちゃめちゃ好きなだけ。』というその言葉が頭をよぎったが、パン!と頬を両手で叩き気合いを入れた。

「試合再開じゃ!!みんな、気合い入れて頼むで!!」 大きな声で応援団に声をかける。

ウォー!! 気合いの入った歓声と共に力強くメガホンを叩く音がスタンドに鳴り響いた。

六回の表が始まる。
< 63 / 108 >

この作品をシェア

pagetop