忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
三年生 春 ~高校時代~
達也くんと過ごす日々は穏やかで幸せ。ゆったりとした時間が流れる。

本当に私のことを大切にしてくれているのがわかる。そっと大切に繋いでくれる手も、時々さらさらと髪を撫でてくれるその手も、車や人混みからそっと肩を抱いて守ってくれる手も…安心できて本当に好きだと思った。私は達也くんの優しい手が好き。




「フフッ」
何だか嬉しくなって笑ってしまった。

「ん?どしたん?」
達也くんも微笑み顔をのぞきこみながら優しくたずねる。


「一年生、初々しゅうて可愛いなぁって思って。」
桜の花びらが降り散る中、新しい制服と新しいカバンの新入生達が少し緊張しながら登校している。

あっという間に私たちは三年生になっていた。少しは私も大人っぽく見えるかなぁ…

フワッと風が吹き、肩より下まで伸びた私の髪の毛をサラサラとなびかせた。

「みらいちゃん…」
達也くんが立ち止まりポケットに入れていた手を出してサラッと私の髪の毛を撫でた。

少し首をかしげながら顔にかかった髪の毛を耳にかける。

「これ。」
達也くんが手の平に乗せた桜の花を見せる。
「髪の毛についとった。」

「ありがとう。風のせいかな。」
花ごと風で飛ばされて私の髪の毛に着いたのだろう桜の花はとても可愛いかった。

達也くんはそのままその花を胸のポケットに差し、そっと手を繋いできた。
登校中で沢山の人がいるなか手を繋ぐのは恥ずかしかったが、達也くんと手を繋ぐと心がポカポカとした。

「みらいちゃん、髪の毛伸びたなぁ。長いのも似合う。可愛い。」

また顔をのぞきこんでそう言われ、頬が赤くなるを感じた。もう付き合い初めて半年以上経つのにまだ照れてしまう。

「フフッ、照れとる!」
目を細めて笑う達也くんの髪の毛もサラサラと風に揺れていた。

野球をやめた達也くんの髪の毛は風になびくほど伸びている。
手のひらも前より柔らかくなった気がする。

「達也くんも、髪の毛伸びた…」

「うん」
達也くんが少しうつむいて返事をする。伸びた髪の毛は野球から遠ざかった日の長さを物語っている。

「…可愛いね」
顔をのぞきこんでそう言うと

「プハッ!可愛いじゃないカッコええじゃろ」
弾けそうな笑顔で私を後ろから抱きしめ、頭をグシャグシャっと撫でる。


通りすがりの新入生達が
「何か可愛いカップル」
「いいなぁ~カレカノ」
そう噂しているのが聞こえて耳まで赤くなってしまった。

「俺らラブラブに見えるんかな?」
達也くんにも聞こえていたらしく、まんざらでもない表情で鼻の頭をポリポリとさわっている。
「光栄です。」
私も心がくすぐったい気持ちがして嬉しかった。

幸せ…なんだなぁ…。私。
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