医者嫌いの彼女
「ここ、座って」

そう言って亜妃を丸椅子に座らせ、
向かい合うように俺も座る。

すると恐る恐る亜妃が声をかけてくる。

亜妃「あ…あの。色々パニックなんですけど…
こ、これはどういうことなんでしょう?」

目を合わせずに聞いてくる。

「騙して連れてきたのは悪かった。でもそれ、
多分風邪じゃないから。…気付いてんだろ?」

亜妃「…ない」

…?

聞こえなかった、何て言った?

「はっ?何⁇」

聞くと、少しだけ声のボリュームを上げて話し出す。

亜妃「か、関係ない…ですよね。
…さっきも言いましたけど、私は長生きしたい
わけじゃないので、例えこれが風邪じゃなくて、
死んだとしても後悔はしません。
…そ、それに‼︎瀧さんはフリーターでしょ⁇
なんで瀧さんにそんな事言われなきゃ…」

…なぜこうも死ぬ事に対して恐怖心なく
いられるのか。

自分の将来すらも諦めた発言に多少
不快感を覚えるが、まずはフリーターを
撤回しないと、だな。

診察室裏に置いてある予備の白衣をはおり、
改めて自己紹介をする。

「フリーター改め、呼吸器内科医の瀧です。」
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