ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
無言のまま、エレベーターに乗り込む。
7階は意外とすぐだ。

部屋の中は、昨日来た時となんら変わらない、何もない状態だ。

「座って。コーヒー入れるから。」

「あ、待って。
コーヒーはいいよ。」

………返事言ったらすぐ帰るつもりか?

「これ……ご飯まだでしょう?
健心の晩御飯のついでだけど、残り物詰めてきたから。」

そう言って差し出されたのは、1人分の弁当箱。

「……作ってくれたのか?」

「残り物よ。
大したもの入ってないから。」

中身はチーズがかかったハンバーグだった。
俺の大好物だ。
高校時代、家で勉強した時、よく作ってくれた。

「………ありがとう。
俺の大好物だ。
……食べてもいい?」

「もちろん。
ここ、お茶はあるの?」

「ペットボトルなら。」

「彬良は座ってて。
冷蔵庫、勝手に開けるから。」

うん。
その冷蔵庫だって、灯里のために大型を買ったんだ。灯里のなんだぞ。

思いがけない展開に、上手く言葉も出せないまま、灯里の作った弁当を食べ始めた。

……美味い。
あ、ダメだ。
マジでヤバい。
涙腺が……

「はい、お茶……え?
ちょ、ちょっと⁉︎ 彬良、どうしたの?
味、おかしい?」

「……美味いから。」

「な…大袈裟な。
そんなの、何度も食べてるじゃない。」

「うん。でも何度食べても美味しい。」

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